7-3

 暗くて長いらせん階段を最後まで降りると、がらんとした広い部屋に出ました。

 形はちょうどドームのようになっていて、一歩ごとに足音が大きく響きます。


 部屋の中央に置かれた台座の上には、球体がふわふわと浮いています。

 大人が十人ほど手をつないで、やっと囲めるほど大きな球体です。


 球体の中には、鈍く輝く赤黒い光がゆらめいていました。

 まるで呼吸でもしているかのように、暗くなったり明るくなったりを繰り返しています。


「これが、【赤い月】……」


 ちひろはぞくりと体を震わせました。

 もしも今この光が目覚めたら、ちひろもすっかり理性を失い、オオカミ人間になってしまうのです。


 台座には、カウントダウンを示すデジタル数字が表示されています。

 これがゼロになった時、【赤い月】は夜空へと打ち上げられてしまうのです。


「あと二十分か」

 桐生はまだ来ていませんが、作戦開始です。


 まずは地下室の内側にバリアを張らなくてはなりません。

 ちひろは床に左手をつくと、意識を集中させます。


「ワカバウォール!」

 ちひろの手のひらから、虹色のヒーローオーラが広がっていきます。


 虹色の光は床から壁、壁から天井へと、流れるようにいくつもの六角形を描きながら、バリアを形作っていきます。

 ほどなく、地下室はすっかりバリアで覆われてしまいました。


 次は増幅装置です。

 ちひろは壁際の大きな機械へと歩み寄りました。


 機械の手前には、手すりで囲まれた四角いステージがありました。

 ステージにはレバー式のスイッチがひとつ、取り付けられています。


 頭上には、いくつもの巨大なレンズが折り重なるように配置されています。

 その先には大きな管が口を開けていて、そこを通ったエナジーはやがて【赤い月】の置かれている台座へと吐き出されるようになっていました。


 あと五分待とう。ちひろはそう決めました。


 もちろん、桐生のことは信じています。

 けれど、巨大化した桂城は簡単に勝てる相手でもなさそうでした。

 待てる時間にも限りがあります。


 ひとりで増幅装置を使えば、ちひろの命までも奪いつくされてしまうでしょう。

 でも、ちひろが何もしなければ、海辺の町は【赤い月】に照らされ、大勢の人がオオカミ人間にされてしまうのです。


「俺はやる。カズマ、力を貸してくれ」

 ちひろはそうつぶやくと、震える指でコインをぎゅっと握りしめました。


 その時です。


 パリン!


 と、甲高い音がしました。

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