6-3

 ニッと笑ったテツさんに、ブロッチが言いました。


「しかし、行ってどうするというのかね? 計画を止めるにしても、具体的な方法がないと、少年が再び危険にさらされるだけではないか。もっとも【青い月】があれば話は別だが」

「そこなんだよな。どうやって計画を止めるか。研究所をぶっ壊すにしても、ちひろは守備型だからな」


 テツさんとブロッチが、顔を見合わせて悩んでいます。

 ちひろは、手のひらの上をじっと見つめていました。


 薄暗い地下牢の中で、コインは綺麗な銀色に光っています。

 光を反射しているのではなく、コインそのものが、ぼんやりと輝いているのです。


「まさか」


 ちひろは思い出していました。

 敵の本拠地へと向かう前、ふたりについていくと聞かなかった光太郎のことを。


 カズマは、光太郎にコインを渡して言いました。

『いいか、光太郎。これをこうやって、指で上に弾くんだ』


 光太郎はコインをぎゅっと握りしめていました。

 強く強く、思いを込めて。


 もしその時、光太郎の思いと一緒に、光がコインに込められたのだとしたら。


 透明な球から光太郎の手に光が移ったように、光太郎の手からこのコインに【青い月】が移ったのだとしたら。


「これだ!」

 ちひろは大声を上げました。ついに見つけたのです。


「どうした、ちひろ」

「なんだね、急に」


 ちひろは、コインを握りしめました。


「あったんだ、【青い月】が!」

「何だと?」

 声を上げたブロッチを、テツさんが止めました。


 遠くから、たくさんの足音が近づいてきます。

「来やがったな、ヒーローどもが。ちひろ、左手を出せ」


 ちひろが左手を差し出すと、テツさんはその手首に、カチャリと腕輪をはめました。


「あっ、ヒーローバングル!」


 懐かしい感触です。バングルは、以前のようにちひろの腕で白銀色の光を放っています。


「これも、烏丸先生からあずかったのかね?」

「そうさ。それよりブロッチ、悪の総帥の実力、見せてくれよな」

「な、なにっ?」


 バタバタと、騒がしい足音がすぐそこまで迫っています。

 テツさんはニタッと笑うと、ちひろの背中を押しました。


「行けよ、ちひろ。ここは俺たちにまかせろ!」

「は、早く行きたまえ! キミは吾輩のライバル、海辺の町のヒーローだろう!」

 足がガクガク震えていますが、ブロッチ総帥もテツさんと並んで立ちました。


 ふたりの視線の先から、五つほど人影が現れました。


「誰だ! 侵入者か?」

「捕まえろ、脱走だ!」


 人影はそう叫びながら駆け寄ってきます。


「ふたりとも、ありがとう!」

 ちひろはそう言うと、テツさんとブロッチに背を向けて走り出しました。

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