4-8
本部には、桐生が連絡を入れたようでした。
すぐに応援部隊が派遣されてきて、夕方にはもう、ちひろは村へと連れ戻されていました。
学園の正門の前では、烏丸先生が待っていました。
先生はちひろの顔を見ると、黙って一度頷いてから、そのまま歩き出しました。
ちひろも黙って、先生の後に続きます。
夕日が窓という窓から差し込んで、校内をオレンジ色に染め上げています。
ほんの一か月前まで毎日通った学校なのに、今は全く知らない場所のように感じます。
やがて先生が足を止め、ちひろも立ち止まりました。
飴色の、重そうな木の扉です。
『学長室』――長い学園生活の中で、ちひろが一度も入ったことのない部屋です。
「星崎ちひろを連れてきました」
先生はそう言ってから、ドアノブをがちゃりと回しました。
部屋の真ん中には、大きなテーブルが置かれています。
その両横のソファには、スーツを着た大人たちがずらりと並んで座っています。
ヒーロー本部の偉い人や、支部長たちです。
中には、教科書に載っているくらい有名なヒーローもいます。
そして、ちひろの正面にいるのが、東雲剛。
この学園の学園長であり、ヒーロー本部の中心人物でもあります。
かつてたった一人で宇宙海賊と戦い、地球を守ったという伝説の男です。
その眼光は今でも鋭く、新人ヒーローなど、ひと睨みで動けなくなってしまうほどです。
けれどちひろは、そんな学園長の厳めしい顔も、ぼんやりと見つめているばかりでした。
「桐生タケルから報告を受けている。星崎、よく無事で戻ったな」
それから、この一か月の間に起きた出来事を、いろいろと尋ねられました。
ブラックパンジーのこと、それとは別の悪の組織のこと、オオカミ人間のこと、そして、相棒のカズマのこと……。
ちひろは今も、この一か月間の出来事が、すべて夢だったような気がしていました。
(ああ、きっとそうだ。だってこんなの、現実に起きているはずがないじゃないか)
白いもやのかかった頭で、ちひろはそんなふうに思っていました。
「……なるほど。事件の内容は、だいたい分かった。最後に聞くが、君たちを襲った男は、どんな奴だったのかね」
「それは――」
ちひろの頭に渦巻く白いもやが、急に黒へと色を変えました。
自分たちを襲った男。それは――。
「――よく、覚えていません。フードを深くかぶっていて、顔が分からなかったので」
「そうか。よろしい、今日はもう帰っていいぞ」
ちひろは頭を下げると、烏丸先生に付き添われて部屋から出ていきました。
扉が閉まると、学園長は立ち上がりました。
「諸君、これから対策会議を行う。言っておくが、これはかなりの緊急事態だ。覚悟はいいか」
その場にいる全員が、力強く頷きました。
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