4-6

 自分の足音と荒い息づかいだけが、やけに大きく聞こえます。

 小川を飛び越え、急な岩場を飛び降りて、ちひろは走り抜けます。


 ようやく石の階段が見えてきました。

 あれを降りたら、あとはまっすぐ進むだけです。


 その時。


 突然、轟音とともに地面が激しく揺れました。


 ちひろは足を取られ、その場に倒れました。

 光太郎は驚いて、火が付いたように泣き出してしまいました。


 一体、何が起きたというのでしょうか。


 ちひろは立ち上がり、そして見ました。

 山の中腹から、激しく煙が立ち上っているのを。


 爆発したのです。


 さっきまでちひろがいた場所――カズマが残り、父に似たあの男がいた場所で、大きな爆発が起きたのです。

 カズマの必殺技でしょうか。それとも、あの男の仕業なのでしょうか。


(カズマ……?)

 ぞくりと嫌な予感がしました。


「光太郎。ごめん、ちょっとここで待ってて」

「イヤだぁ、イヤだぁ!」


 光太郎は大声で泣きながら、ちひろの腕を掴んで離そうとしません。


「……ごめん!」

 ちひろはその手を振りほどくと、来た道をまた走り出しました。


(カズマ、無事でいてくれ!)


 ただそう願いながら、ちひろは必死で足を動かし続けました。




 あたり一面に、焼け焦げたにおいが漂っています。


 折れた木々が周囲に散らばり、岩肌は黒く焦げています。

 地面にはまるでクレーターのように、くっきりと爆発の跡が残されていました。


 そこには誰もいませんでした。

 カズマも、父に似たあの男の姿もありませんでした。


 爆風で木々が薙ぎ払われたせいで、空がずいぶん近くに見えています。


 日の光を反射して、光るものがあります。

 近づいてみると、それは銀色のコインでした。

 爆発でゆがみ、地面にめり込んでしまっています。


 ちひろは、震える指でコインを拾い上げました。


 その指先に、赤黒いものが触れました。

 コインにべったりとついた血の跡です。

 よく見ると、地面にも同じ色のしみが散らばっています。


「嘘だろ……」


 ちひろはがばっと立ち上がると、ガケの下や下草の中を夢中で探し始めました。

 カズマが倒れていないか、茂みの中から、ひょこっと顔を出すんじゃないか。


 ちひろは必死で探しました。


 そうでもしていなければ、闇よりも暗い絶望が、ちひろを丸のみにしてしまうでしょう。


「嘘だろ。なあ、カズマ。嘘だよな」


 ちひろは歯を食いしばり、ただひたすらカズマの姿を探し続けました。

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