3-6

 ちひろはその場に倒れ込みました。

 ヒーローオーラを使い過ぎたのです。


 かろうじて意識はありますが、体が動きません。


(くそっ。早く、早く本部と連絡を――)


 その時です。


「やれやれ、見ていられないな」

 と、聞き覚えのない男の声がしたのです。


 黒いブーツが目の前に現れました。

 倒れたままで何とか顔を上げると、黒い瞳と目が合いました。

 見たことのない顔ですが、ちひろはなぜか、その男を知っているような気がしました。


 次の瞬間、男はカズマのそばに移動していました。

 オオカミ人間たちは、軽く後頭部を叩かれて、次々と気を失っていきます。


 あっという間に四人のオオカミ人間たちを制圧すると、男はカズマに言いました。

「さっさと本部に連絡しろ。こいつらがまた目を覚ますとやっかいだ」


「あんた何者だ? ヒーローなのか?」

 カズマが言うと、男はふんと笑いました。


「助けてもらった相手に、礼も言えないのか」

「答えろ、あんた何者だ」

 カズマの目は油断なく細められています。


「そうだな、貴様らがもう少し強くなったら教えてやろう。だが、少なくとも敵ではない」


 そして、男はちひろのほうに歩み寄ってきました。


「貴様が星崎の息子か」

「父さんを知っているんですか」

「あいつを知らないヤツなどいない」


 倒れたままのちひろの前で、男は立ち止まりました。


「これは、貴様らヒヨッコの手に負えるような事件じゃない。この町から手を引け。いいな」


 そう言って立ち去る男の背中に向かって、ちひろとカズマは叫びました。


「断る!」

「この町は、俺たちが守ってみせる!」


 男は少しだけ振り返ると

「勝手にしろ」

 とだけ告げ、そのまま姿を消しました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る