3-5

「なんだよ、どうした」

 突然の制止に、カズマは怪訝な顔をしました。


「オオカミ人間たちは、もともと普通の人なんだ。攻撃するわけにはいかないよ!」

「確かに、そうだけど……」


 ガオッ!


 赤い目を怪しく光らせて、スーツ姿の男性がちひろに襲い掛かりました。

 ちひろは軽くいなしましたが、すぐに別のオオカミ人間が飛びかかってきます。

 ちひろはすばやく後ろに下がって、相手と距離を取りました。


 ガオッ!


 また、別のオオカミ人間が襲ってきます。


 こちらからは手が出せず、相手はこちらよりも人数が多いのです。

 これでは、いずれこちらが疲れ切ってしまいます。


「よし。俺があいつらを引き付けておくから、ちひろは本部に連絡してくれ。こういう場合はどうしたらいいか聞くんだ。それしかない」

「カズマひとりじゃ危険だよ!」

「お前がもし気絶したら、ワカバウォールが消えてしまう。そうなったら子供たちが危ない。そうだろ?」


 カズマの言うことはもっともです。

 ですが、一対四の状況はあまりに不利です。いくら戦闘向きのカズマとはいえ、危険すぎます。


 けれど、カズマは不安を少しも見せず、いつものように力強く言いました。

「さあ、行くぞ!」


 カズマが前に飛び出すと、四人のオオカミ人間たちは一斉に襲い掛かってきました。

 こうなったら、時間との勝負です。


 ワカバメットには通信機能がついています。

 ちひろがそれを使って、本部と連絡を取ろうとした時でした。


 目の端に、動くものが映りました。


 まだいたのです。

 五体目のオオカミ人間が、入口から飛び込んできたのです。

 ちひろの反応が、少し遅れてしまいました。


 ガブッ!


 鋭い牙が、ちひろの肩に突き刺さりました。

 悲鳴を何とか我慢し、相手を振りほどこうとしたところで、ちひろは目を見開きました。


 振りほどくなんて、とてもできません。

 赤い目を輝かせて肩に食らいついた相手は、腰の曲がった小柄なおばあちゃんだったのです。


「ちひろ!」

 カズマが、四人に囲まれながらも叫びました。


「お兄ちゃん、しっかり!」

「がんばって、ワカバマン!」

「負けるなー!」

 子供たちも精一杯叫んでいます。


(どうしよう、どうしよう、どうしよう……)


 しびれ始めた頭で、ちひろは思っていました。

 父なら、どうするのだろう、と。


 もし父がこんなピンチを迎えたら、一体どうするのでしょうか。


 あきらめてしまうでしょうか。

 それとも、ただやみくもに暴れるでしょうか。

 一発逆転を狙って、大技を繰り出すでしょうか。


(父さんなら、きっと……)


 ちひろは、左手でおばあちゃんの腕をつかみました。


 歯を食いしばって、ヒーローオーラを集中させます。

 手のひらから放った光は、六角形を描きながら帯のように伸びていきます。


 光はおばあちゃんの腕や胴体にぐるぐると巻きつきました。

 ヒーローオーラをロープのように使って、おばあちゃんを縛ってしまったのです。

 きつく締め上げてはいませんが、おばあちゃんは動けなくなってしまいました。

 そうして、ちひろはやっと肩から牙を外すことに成功したのです。


 でも、そこまででした。

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