3-4
ガリガリ、ガリガリ
扉や窓を鋭い爪でひっかく音が、不気味に響いています。
子供たちはみんな、幼稚園の講堂に逃げ込んでいました。
かんなはブロッチ総裁と一緒に、必死に扉を押さえています。
「ねえ、先生。ヒーローのお兄ちゃんは、いつ来るの?」
「お兄ちゃんたち、来るよね!」
子供たちは泣きべそ顔をしながらも、ヒーローの登場を信じています。
「きっと来るわ。それまで、がんばりましょう!」
かんなはそう言って笑ってみせましたが、扉を押さえる手は、恐怖と疲労で震えていました。
「オイ、ほうき女」
「失礼ね。誰がほうき女よ!」
「このままでは扉が壊されてしまう。キミは今のうちに、子供たちのところまで下がりたまえ」
「でも、扉を押さえ続けるのは、あんたひとりじゃ無理よ!」
「いいから、早く!」
そう言って、ブロッチがかんなを突き飛ばしました。
次の瞬間、バリバリとすごい音がしました。
扉が砕けたのです。
かんなは素早く立ち上がりました。
「悪の総帥! 大丈夫なの?」
ブロッチの姿が見えません。
その代わりに入口に現れたのは、赤い目をらんらんと光らせたスーツ姿の男性です。
かんなは手に持っていたほうきをかまえました。
壊れてしまった入り口から、オオカミ人間たちがぞろぞろと入ってきます。
全部で四人。
それぞれ口元から鋭くとがった牙をのぞかせ、地を這うようなうなり声を上げています。
「ウウ、カエセ、カエセ」
「盗ンダモノ、カエセ」
「ツキ、月、青イ月」
「ウウ、カエセ、月、盗ンダ月」
四人は口々に、そんなことを言っています。
誰かに話しかけているというよりは、ひとりごとに近いような感じです。
ぞろり、ぞろりと、四人は子供たちに近づいてきます。
かんなはほうきを振り上げようとしましたが、怖くて体が動きません。
作業服姿のオオカミ人間が、かんなに向かって手を伸ばします。
かんなが思わず目を閉じた、その時でした。
「待てっ!」
あれほど待ちわびていた声が、自分のすぐ近くで確かに聞こえました。
かんなはゆっくり目を開けました。
自分をかばうように立っている背中は、近くで見るとずいぶん大きく感じました。
もう、オオカミ人間など怖くありません。
だって、来てくれたのです――この町を守る、ヒーローが。
「お兄ちゃん!」
子供たちが、わっと歓声を上げました。
「誰ダ、誰ダ」
「邪魔ヲスルノハ、誰ダ」
「盗ンダモノ、カエセ」
「邪魔モノ、倒ス」
ちひろとカズマは顔を見合わせ、同時に頷きました。
「変身!」
右手をヒーローバングルに重ね、力をこめます。
白銀のバングルは、虹色に強く輝きはじめました。
全身にまとう虹の光。
やがてそれは、白地に緑のワカバスーツへと姿を変えていきます。
グローブとブーツは緑色で、ちひろの左腕には丸い形のワカバシールドが、カズマの右手には一振りのワカバソードが装着されています。
最後に頭がワカバメットに覆われて、変身は完了です。
「俺たちは」
「新人ヒーロー」
「ワカバマン!」
子供たちは大喜びです。
ですが、気を抜けるような状況ではありません。
ちひろはその場にかがむと左手を床につけ、集中します。
「ワカバウォール!」
子供たちを囲むように、地面からいくつも光の筋が立ち上がります。
それは六角形を描きながら、透明な壁を作り上げていきます。
やがて、オーラの壁がオオカミ人間と子供たちの間に立ちはだかりました。
「よくやった、ちひろ。じゃあ行くぜ!」
「ちょっと待って、カズマ!」
相手に飛びかかろうとしたカズマを、ちひろが制しました。
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