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隣町に着くと、ふたりはさっそく交番に向かいました。
海辺の町の新人ヒーローだと名乗ると、若い警官は「ご苦労様です」と親しげに挨拶してくれました。
そこで一時間ほど、話を聞くことができました。
最初に行方不明になったおばあさんは、三年前に旦那さんを亡くし、一人暮らしでした。
ご近所の方々とも仲が良く、地域の老人会にも積極的に参加していました。
体もとても元気で、孫が訪ねてくるのをいつも楽しみにしていたはずなのですが、三か月前に娘夫婦が家を訪ねた時には、いなくなってしまっていたそうです。
次に、スーツを着た男性ですが、会社勤めをしている四十歳の男性だそうです。
会社でも特にトラブルはなく、真面目な社員だったということでした。
いなくなったのはやはり三か月前で、会社からの帰りに駅の改札で目撃されたのが最後だったといいます。
最後に、男子学生。彼は高校二年生で、サッカー部に所属するスポーツ少年だったそうです。
学校では明るい人気者で、悩みを抱えていた様子もなかったといいます。
彼がいなくなったのは二か月前。部活の帰りに消息を絶ったといいます。
警察も、捜査員を増やして必死の捜索に当たっていますが、なかなか手がかりが見つけられずにいるようでした。
「近くの町でも、三か月以内に失踪した人が他に四人もいるんだ。一体何が起きているんだろう」
若い警官は、深々とため息をつきました。
ちひろとカズマは、子供たちが見たというオオカミ人間の話を伝えておきました。
警官は笑ったりすることもなく、真剣にメモを取りながら聞いてくれました。
「この町で、オオカミ人間を見たという噂話はないんですか?」
「うーん、聞いたことがないな。でも、確かに気になるね。町の人たちにも聞いておくよ」
お願いしますと言ってから、ちひろとカズマは立ち上がりました。
「手がかりナシ、か」
駅までの道を歩きながら、カズマが小さく舌打ちをしました。
「そんなことないよ。全部で七人も失踪者がいたこと。三か月以内に起きてるってこと。失踪した人たちには、特に悩みとか、いなくなるような要因がなかったってこと」
「悩みなんて、外側からじゃ分からないさ」
カズマは突然立ち止まると、ぽつりと言いました。
「どうしたのさ、急に」
ちひろも足を止めました。
「夜、テツさんの店から帰る途中にさ。空を見上げると、月が浮かんでるんだ」
そう言ったカズマの声には、いつもの弾むような陽気さは感じられませんでした。
「あたりは真っ暗でさ、ときどき風の音がする。月はまぶしいくらいに輝いていて、俺の方をじっと見てるような気がしてくるんだ。そうやって月とにらめっこしてると、だんだん自分自身の意識が消えていって、ふらっとついて行きそうになるんだ」
「ついていくって、月に?」
「そう。すーっと吸い寄せられそうになる。なんか、そうしたら楽になりそうな気がして」
カズマは、俺らしくねえよな、と笑いました。
ピピピ、ピピピ、ピピピ
けたたましい音が突然響き、カズマはポケットから携帯電話を引っ張り出しました。
「はい。なんだよ、ブロッチか……えっ?」
カズマの顔色がサッと変わりました。
そして、電話を切った次の瞬間には、カズマは走り出していました。
「ちょっと、カズマ! どうしたんだよ!」
「ちひろ、急げ! 幼稚園が危ない!」
けれど、ちひろは冷静でした。
駅へと走ろうとするカズマを、あわてて引き戻します。
「待って、カズマ。電車で行くより、今はアレを使おう!」
「あ、そっか」
ふたりは並ぶと、左腕を真っすぐ前へと伸ばしました。
そして、手首に輝く白銀の腕輪『ヒーローバングル』に、それぞれ右手を重ねます。
手のひらから発した『ヒーローオーラ』を注入することで、ヒーローバングルは様々なものに姿を変えるのです。
スーツや武器になるのが一般的ですが、今回は違います。
ヒーローバングルが、虹色に輝きはじめました。
両肩と腰に、虹色の光の帯が巻き付きます。
背中へと広がる光は、三角形の輪郭を描くと、パッとはじけました。
ふたりの背には、ちょうど大きな紙飛行機のような凧が現れました。
空を飛ぶための翼、ワカバウイングです。
「俺たちのオーラで、何分ぐらい飛べるかな」
「一駅ぶんくらいなら大丈夫だと思う。行こう!」
ちひろは地面を強く蹴りました。
ワカバウイングは風を受け、一気に青空へと舞い上がります。
空中で方向を確認、目指すはこぎつね幼稚園。
ふたりは風を切り裂いて、一直線に海辺の町へと向かいました。
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