3-2

「遠吠えをする人間だと?」

 ブロッチはもぐもぐとサンドイッチを食べながら、眉をしかめました。


 三人で協力したので、新聞配達はすぐに終わりました。

 今は公園のベンチに腰掛け、朝食を食べながら話をしているところです。


「オオカミ人間などいるはずがないだろう。おとぎ話の中の存在ではないか。見たと言っている連中は、夢でも見ていたんじゃないのかね?」

「じゃあ、総帥はオオカミ人間の噂を聞いたことがないの?」

「ない。だが、別の噂なら聞いたことがあるぞ」

「どんな噂?」

「おいおい、質問には答えただろう。まだ吾輩から情報を聞き出そうというのかね?」

「いいから、さっさと言えよ!」

「あっ、ちょっとキミ、暴力はいかんぞ! ええい、離せ! 答えるから!」

「早く教えてよ」


 しびれを切らして詰め寄るカズマを抑えながら、ちひろが続きを促します。


「隣町の話だが、この数か月の間に『神隠し』がいくつも起きているらしいぞ」

「神隠し?」

 ブロッチは浮かない顔で頷きました。


「最初は老婦人だったそうだ。次に、会社帰りの中年男。いちばん最近だと、学生が学校帰りに消息を絶ったそうだ」

「何だって?」

 ふたりは息を飲みました。


 なんということでしょう。

 遠吠えをするという人々と神隠しにあった人々の特徴が、一致しているではありませんか。

 これは、ただの偶然なのでしょうか。


「身代金の要求なども全くなく、三人に共通の知人もいない。事件か事故かもはっきりしておらん。まったく、どうなっておるのか……なんだキミたち、急に怖い顔をしおって」

「ねえ総帥、ブラックパンジーが次に活動するのはいつなの?」

「我々は週一回のペースで活動しておる。昨日は貴様らに邪魔されたが、また来週の木曜日に悪事を働く予定だ」

「じゃあ、今日は僕らがこの町を離れても大丈夫だね」


 どうやら、隣町へ行って詳しく調べる必要がありそうです。


 カズマは少し考えると、言いました。

「ブロッチ、俺の連絡先を教えてやるよ」


「いらぬわ! なぜ吾輩が、ヒーローなんぞと連絡を取らねばならんのかね」

「いいか、ブロッチ。俺とお前はライバルだ。俺は、他のやつらがこの町で悪事を働くなんて許せない。分かるか?」

「……うむ、分かる。ライバルとは時に敵であり、またある時には最良の友である。つまり男とは、そういうものであるからな」

「だからさ、もし別の悪党が現れたら、すぐに教えてほしいんだ。この町で悪の組織はブラックパンジーだけ。そうだろ?」

「うむ、確かにな」

「他の連中なんか、俺たちが追い払ってやる!」

「うむ!」


 ブロッチは、あっさりカズマの口車に乗せられてしまいました。

 ふたりが電話番号を交換するのを見届けてから、ちひろは立ち上がりました。


「じゃあ、俺たちそろそろ行くね。総帥、情報ありがとう」

「礼などいらぬ。吾輩こそ、配達を手伝ってもらって助かった」


 ぺこりと頭を下げたブロッチを残し、ちひろとカズマは公園を後にしました。

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