第19話 時坂峠リベンジ


 その日は前日から昼過ぎには雨の予報が出ていた。

 しかし、朝起きてみると日が差している。

 雨には降られたくないが、なんとなく降らないんじゃないかと思い自転車に乗ることにした。

 行き先は時坂峠。

 四か月振りのリベンジである。

 多摩川サイクリングロードから睦橋を渡り武蔵五日市駅まで。

 既に何回も通ってる道は休憩の場所もわかっているので気分的にはずいぶん楽だ。

 しかし、空は曇り空。

 雨が降る前にという気持ちがあるせいか自然と急ぎペダルを回す。

 結局時坂峠の前に着いた時には少し足に疲れを感じていた。

 ベンチで長めに休憩を取り、足が回復するのを待って時坂峠に挑む。

 最初の坂で息が上がり過ぎないようにローペースで。

 一度登った峠は様子が分かるから以前よりも冷静になれる。

 軽いギアでクルクル回し、斜度が上がったらダンシングに切り替え登る。

 息は上がる。しかし以前足を着いた場所を通り過ぎまだまだ登れる。

 ここに再び来るまで四か月。

 たしかに成長はしているようだ。

 しかし、息はだいぶ上がり、心臓もバクバクいい始める。

 なんとか息を整えようとするが、足を回しながら息を整えられる斜度ではなし。

 ついに足を着いてしまった。

 完全に酸素が足りてない。

 意識は白くなりかけゼイゼイという自分の息遣いだけが山道に響く。

 おおよそ半分程度。

 今回こそはと思ったが、時坂峠はそんなに甘くはなかった。

 一瞬このまま帰ろうかと思う。

 しかし、せっかくここまで来たのだ。

 足を着いたものの登り切らねば帰れない。

 しっかり休憩をして息を整え再びサドルにまたがった。

 一番斜度のきついところは超えれた。

 あとはきつくはあるがペダルを回せないことはない。

 上がった体温と冷えた峠の空気の温度差で皮膚がキンとなる。

「登れる、俺は登れる」と繰り返しながらペダルを回す。

 なんでこんな苦しいことをしているんだろうと疑問が浮かんでは打ち消し。 

 ただペダルを回すことに集中する。

 やがて以前は押して歩いた区間を過ぎ、木々の先に峠の茶屋の看板が見える。

 やっとゴール。

 登ってやった。

 休憩はしたがちゃんと登れた。

 この達成感がたまらない。

 正直苦しいししんどい。

 しかしそれを越えた先の達成感。

 以前よりも成長している自分を実感できるこの瞬間を味わうために登っているのだと。

 ここで分かった。

 しばらく休憩し、帰りのご褒美ダウンヒル。

 そして近くの手打ちラーメンの橘屋でラーメンをたべ。

 お土産にちとせ屋のおからドーナッツを買い帰路に着いた。

 結果としては引き分けかな。しかし前回よりは格段に良くなった。

 時坂峠には今後、何度も来るだろう。

 そのたびに自分が成長していると嬉しい。

 そのためにも坂を上る練習をして体を鍛えよう。

 いよいよロードバイクの納車が近い。

 これからもあちこち行ってみよう。

 

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