第12話 時坂峠チャレンジ失敗
結論を言うと時坂峠はきつかった。
クロスバイクに乗り出して約一か月、そろそろヒルクライムにチャレンジしてみるかと色々な峠を比べ、初心者向けらしい檜原村の時坂峠に行くことにした。
標高か低い割には景色が良い、入り口にある豆腐屋のちとせ屋さんのドーナッツもおいしそうだし。
何より多摩川サイクリングロードからのアクセスが分かりやすいのが良かった。
いつものコンビニで買い物をし、多摩川サイクリングロードを上流へ、ここらへんはすっかり慣れた道だ。
睦橋に渡り武蔵五日市駅まで約十キロ、片道二車線で走りやすい。
同じく奥多摩へ向かうロードバイクがビュンビュン俺を抜いていくが、追いつけるものでもないのでマイペースに走る。
じょじょに近づく山の雰囲気にテンションが上がってくる。
とくに問題もなく、武蔵五日市駅へ、そこから左に曲がり檜原海道を進む。
ここらへんから段々と山の中の雰囲気が出てくる。
道も坂が混じってきており、気づくと木々の中を走っている。
地味なアップダウンに軽く息を上げながらも進むと橋の上を斜め掛る一本のアーチが特徴的な橋を通過する。
動画やブログで見たところだとテンションをあげつつさらに走る。
檜原村役場の前を通り、突き当りのT字路を右に、そのまま進めば件のちとせ屋、そして時坂峠の入り口だ。
バスの停留所でしばし休憩し、峠へ向かう気持ちを高める。
同じようなロード乗りを見ながら、よしと気合を入れて登り始める。
最初からガツンと来た。
結構な斜度をローギアでなんとか登る。
すぐに息は上がり、ハンドルはふらつく、それでも気合でペダルを回す。
途中調べる過程でみたミニ巻貝のヘアピンを越えてさらに進む。
太ももがきしむ、いままで感じたことのない痛みが太ももの内側に走る。
見上げる道の先にはつづら折りになり、はるか頭上まで続く道、あんなところまで登るのか。
そう思った時に足をついてしまった。
上がった息を整えるために深呼吸を繰り替えす。
上からはハイカーが談笑しながら降りてくる。
歩いたほうが楽なんじゃないか?
そんな思いがこみ上げる。
シャーとなる音に気付く、上からロードバイクが下りてきた。
三人組で談笑しながら下りてくる。
気持ちよさそうだ。
「こんにちは」
ふいに挨拶をされ、驚きながらもこんにちはと返す。
よし、下るためにも上らなければならない。
もう一度サドルにまたがりペダルを漕ぎだす。
しかし、多少休んだところで脚は回復しない。
すぐにまた足を着く。
そして休みもう一度またがり、少し登ったとこでまた足を着く。
そんな繰り返しだった。
初めて、ペダルを回せないと思った。
まだヒルクライムに挑戦するのは早すぎた。
つまりはそういうことだろう。
しかし、足を着こうが押して歩こうが登りさえすれば峠には着く。
このまま引き返そうかとも思ったが、いま帰るよりもとりあえずは峠まで行ってみようと自転車を押して歩くことにした。
ゆっくりと、景色を見ながら。
20分ほども押しただろうか、不意に見えた峠の茶屋の看板。
ゴールだ。
予想よりも長い距離だった。
とりあえず設置されていたベンチに腰掛け、妻が淹れてくれたコーヒーの入ったボトルを開けて飲む。
うまい。
これを飲むためにここまで上がってきたのだ。
峠というだけあって見晴らしは素晴らしい。
色づいた木々が目にまぶしい。
ちょうどいい季節に来たのかもしれない。
しかし、悔しい。
行けると思ってきたわけではなかったけれど、あそこまで出来ないとは思ってなかった。
もっと鍛えないと。
もっと走って体を作って、そしてまたここに来よう。
こんどは押し歩き無しで。
そう決めて峠を折り返し下りる。
爽快だったが寒かった。
そしてちとせ屋でお楽しみのおからドーナッツとホットの豆乳。
冷えて疲れた体にしみじみ美味い。
おみやげにさらに二つ買い、絹ごし豆腐も買って帰路に着く。
帰りは下り基調だったのでずいぶん楽だった。
さあ、またあちこちいって十分自身がついたらまた来よう。
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