第9話 孤独のライド

 天気が良かったので前にリタイアした多摩川サイクリングロードを再び走ることにした。

 一人で川辺の土手の上を走っていると思い出すことがある。

 昔MMORPGのFF11をプレイしていた。

 一度引退し、ちょっとしてきっかけで復帰したら世界が変わっていた。

 カンストレベルが75から99になり、レベル上げは容易になり、以前はパーティプレイが必須だった物がソロでもクリアーできるように変わっていた。

 協力プレイが大前提だったこの世界でそれは大変革だった。

 元々ソロ志向が強かった自分にとってその変化は歓迎されるものだ。

 その中でも自分にとって大きかったのがデュナミス、通称裏世界の仕様変更だった。

 当初は、カンストレベルのプレイヤーが何十人も集まってようやく攻略できるエンドコンテンツだったものが、仕様変更とプレイヤーの強化によってソロでも攻略しうるものになっていた。

 裏世界の報酬は様々だったが、最大の物はレリックウェポン。

 それまでFFシリーズにおいて最強の武器であったエクスカリバーやラグナロク、天の村雲、与一の弓、グングニル。伝説級の武器を手に入れることができる。

 しかし、それを手に入れるハードルも相応に高く、裏世界で手に入る旧貨幣と呼ばれるアイテムをおおよそ18000枚集める必要があった。

 余暇を全てつぎ込んだ人でも数年かけ、仲間の協力のもとに完成させる物がレリック。

 それを作っていると言うだけで感嘆の声が上がるものだった。

 当時はそんな世界にかかわる事もなく、自分の出来る範囲でプレイしていた。

 もちろんほしくないわけではないが、到底手の届かない高根の花。

 しかしそれが時間はかかるがソロででも出来るものになっていた。

 復帰し、仲間にも恵まれ最新コンテンツを一通りクリアーし、自分のキャラクターが十分強くなったと感じた俺は、次の目標をレリックに据えた。

 暇な時間があれば裏世界に行き、コツコツと旧貨幣を集める。

 予定があえば一部の親しい人と裏世界に行き、雑談をしながら旧貨幣を集める。

 ゆっくりとしたペースだが確実に旧貨幣を集めていき、そして半年ほどたった日にレリックウェポンが完成した。

 しかし、それは過去の最強武器。

 性能は当時の最新武器に比肩するものではなかったが、さらなる強化が用意されていた。

 そこからさらに強化の試練をソロでコツコツ攻略していき(俗に千本ノックと呼ばれる試練)それからほどなくして最強の武器に鍛え上げた。

 おおよそ一年、大半のソロと一部仲間の協力で完成したそれに満足し、俺は再び引退した。

 エンドコンテンツと呼ばれる物を完遂したのはそれが初めてだった。

 データといえばそれまでだが、一人目標を決め計画を立て実行に移し、コツコツと目標まで積み上げていく期間は楽しいものだった。

 誰かと一緒にではなく、一人で、自由気ままにもし途中で辛くなったらやめてもいい。

 一人のサイクリングもそうだった。

 事前に決めた通りでなくてもつらくなったら休憩する、事前に目星をつけたカフェも気が変わったら行かずに、気ままに気楽に道を間違えても良い。

 そうやって走るのが何よりも楽しい。

 自転車は一人で完結できるものだという事が気に入った理由の一つなんだろう。

 仲間内でのグループライドも楽しいのだろうが、それはおいおい。

 今は気ままな一人旅が楽しいのです。

 多摩川サイクリングロードの起点を目指しおおよそ40キロを走りました。

 コツコツと体を作り、脚を鍛えていこうと思います。

 目標は富士ヒルクライム、ブロンズリングです。

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