第68話 地団駄《じだんだ》

 「あっ、来た。早ぁ~い、電源OFF」

 「ゆたか、えっ、何ぃ~、ちょっと、や~め~て、お尻すんすんしないでっ」

 「・・・」「ゆたかぁ~、んぶぅ~」

 「・・・」「わぁ~い、早く早くぅ、あっ、途中で午前の紅茶買ってねぇ~」



 あれ、ここの自販機で売ってたと思ったんだけどなぁ~。

 あっちにも自販機あったな、寒かっただろうから、温かいのを持って行かないと。


 「トム、ストーム、キャット、聞こえる」

 「トム、ストーム、キャット聞こえる、えっち、キャットと一緒にいる」

 「ち、えっち、ストーム、僕はまだ自販機の前だよ」


 「トム、ストーム、キャットが無線を切ってるみたいなの、携帯にも出ないの」

 「ち、えっち、ストーム、急いで行く、ドロシーもこっちに来れる」

 「トム、ストーム、急いで行くから」


 「ヴ、ラヴ、わたくしはどの様に」

 「ち、えっち、ラヴとブラボーはそこで待機してて下さい。無線は聞いてて」

 「ラボー、ブラボー、承知しました」


 可笑おかしい、可笑おかしい、可笑おかしい、連絡が取れない。

無線はともかく、携帯の呼び出しに出ない。

呼び出していると言う事は電源が入ってる証拠。

 着いた。「ルイーズ、ルイーズ、携帯」


 ルイーズの携帯を呼び出し続けていた。

 ルイーズが居るはずの公園、ルイーズが立っていたと思われる所で携帯だけがぶるぶると震えている。

 「ルイーズ、悪戯いたずらしないで出て来て」


 「ヴ、ラヴ、ルイーズちゃん、キャットは」

 「ち、えっち、言い換えなくていいですよ。緊急事態です。ルイーズがいない」


 「ゆたか、はあ、はあ、はあ、ルイーズは」

 ドロシーが公園に駆け込んで来た。

 「分からない、携帯がそこに落ちてた」「そんな、じゃぁ、連絡が取れないの」


 「ラボー、ブラボー、旦那様、どうなさいますか」

 「ち、えっち、すみませんが、ラヴさんと二人でここ周辺を車で探してくれませんか。それから無線を切って、連絡は携帯でお願いします」


 ぷるるる、ぷるるる、がちゃ。「はい」「これでよろしくて」

 「はい、お願いします、何か見つけたら、連絡を」「任せてぇー、あなた」

 「僕とドロシーは手掛かりを探します」ぷつ。



 「・・・」「あっ、・・・だめぇ~」

 「・・・」「うっ、・・・もう、だめ」

 「・・・」「はっ、・・・早くぅ」

 「・・・」「どっ、・・・ドロシィ~」

 「・・・」「いっ、・・・いかない、と」

 「・・・」「おっ、・・・お仕事、中ぅ~」



 「ゆたか、どうしよう。闇雲やみくもに走り回っても見つからないと思の」

 「手掛かりと言っても、携帯がここにあるからGPSも使えない」「ゆたか


 「何か、他に何か、どこへ行ったら、どこに、どこに、どこに、くっそ」

 「ゆたか、落ち着いて、ルイーズは魔女だから、いざとなれば魔法があるから」


 「しかし、ルイーズの魔法はどれも弱いものばかりだし」

 「ゆたかに本気で使う訳ないじゃない」


 「ライトニング、ティンダー、クリエイトウォーター、僕が知ってるのはこのぐらい、他に何が使えるのルイーズは」

 「フライ」「確かに最初カバンに乗って、飛んで来たっけ、他には」


 「オブリビエイト」「何それ」「忘却、魔法を目撃した人の記憶を消すの」

 「あとはヒーリング」「それが役立つ場面であって欲しくないな」

 「他は」「私が知ってるのはそれだけ」「あー、ルイーズ、僕には何もない」


 ざっざっざっ。僕は地団駄じだんだを踏む事しか出来ないのか。

 「何も思いつかない、僕にもドロシーやルイーズみたいに何かあれば」

 「ゆたか、私にも魔法は使えない」


 「・・・ドロシー、案山子かかし達は、ルイーズが妖精には何か特別な力があるって、言ってなかった」

 「・・・言ってた気がする。皆」「ドロシー、待って」

 「どうして、早くルイーズを探さないと」


 「日が落ちて周りが暗くなってる。明るい街灯の下だと見られるかもしれない。あっちの木の下の暗がりが良いと思う」

 「分かった、ゆたか見張ってて」「ドロシー嫌なら」

 「うぅん、本当はね、皆、出たがってたの。皆、ゆたかが大好き」


 そう言うとドロシーはこの公園の奥まったところにある、木々の所に行った。

 明るい時、その奥は1mも入れは民家との境、フェンスがある。

 でも日の暮れた今、まるで森の入り口であるかの様で、木と木の間は黒々として、目を凝らしても奥が見えない。

 一歩足を踏み入れれば、振り返っても、今来た道すら見失うと思うぐらいだ。

 近寄りがたい闇がそこにある。

 「皆、御出座おでまし」

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