第66話 マックスと桜

 待ち伏せの初日は、闖入者ちんにゅうしゃがあり台無し。

 家に帰ると、リビングの壁が、キカイべーゼロワンとか言う、秘密基地ぽい、超格好かっこ良い物になってるし。


 あー、でも、不完全な両親回路って、あれ、元の人格が問題なんじゃないか。

 それに、ゼロワンって言ってるのに、ジローってなんだよ。


 それにジローが勝手に扉を開けるからラヴさんが、用も無いのに入って来る。

 まあ、そんな事ドロシーとルイーズが許すはずもなく、ジローを修正して、ドロシー、ルイーズ、そして僕、三人以外の許可なく扉を開けられない様にした。


 すると今度は、僕達が愛を深め合っていると、キッチンの壁が、ガリガリ、ガリガリ、ガリガリと音を立て、気持ちの悪い声ですすり泣くのだ。


 それで僕が文句を言うと、それは収まったが、今度は朝早くに家の玄関のカギを開けて入って来るのだ。(マリオンさんはピッキングが出来るみたいだ。)


 で、チェーンを掛けて寝ると、昨日、ワイヤーカッターで切断された。

 引っ越しをするお金も無し、母さんの目に触れていない事が幸いだ。

 可愛い女の子には見境みさかいがない。


 仕方無く、昨日ラヴさんとマリオンさんとジローと話し合った結果、僕達のプライバシーを侵害しない、探偵業の手伝いをジローにさせる等の条件で、最低優先順位で、ジローの権限をラヴさんとマリオンさんに与える事になった。


 注意すべきは、優しい優しいドロシーとルイーズが、ラヴさんとマリオンさんに対して同情的になっている事だ。


 とにかく今日でラヴさんの依頼は完了する。

 初日以降は妨害も無く、今日まで順調に消化した。

 今日も何事も起こらないで終わって欲しい。

 今日は昨日、じゃんけんに負けたルイーズが、始めにおとりとなる。


 「だっ、旦那様、ぅ~。」

 「お早う御座います、マリオンさん、旦那様は止めて下さい。」

 有難ありがたい事にマリオンさんが、朝食の用意をしてくれている。


 「でっ、でっ、でも、ここの家のあるじ様ですから、だっ、旦那様とお呼びするのが相応ふさわしいかと。」

 「僕の方が年下だし、名前で良いですよ。」

 「でっ、では、ゆ~た~かぁ。」

 「いやっ、そう言うニュアンスはどうかと。」


 「そっ、それでは、ダーリン。」

 「そう呼んで良いのはドロシーとルイーズだけです。」


 「じゃ~、マイ、ハニー。」

 「ドロシーとルイーズだけが、そう呼んで良いんです。」


 「どの様にお呼びすれば。」

 「木下さん、とかくんとか、ゆたかさんとか、くんとか。」


 「嫌です。」「どうして拒否るんですか。」

 「キスをして永遠の愛を誓いまし。」

 「僕が誓ったのは、ドロシーとルイーズです。」

 なっ、何ですか、何でうるうるするんですか。


 「マックス(Max)、パパが、いいえ、ママが立派に育ててあげる、パパをうらまないであげて。」

 前も同じ様なくだりがあった様なぁ。

 「・・・マックスって誰ですか。」


 下腹をさすってもダメ、その手が通じるのはドロシーとルイーズだけだ。

 「マックスぅ~、パパを嫌いにならないでぇ~。」

 そんな小芝居こしばい、通じないぞ。

 ぷしゅーーーうっ。「マリィ~、おはよう、ぉおっ、何をしているの。」

 「お嬢様あぁーーーっ、パパがマックスを認知にんちしてくれないんですぅーーーっ。」


 「・・・はっ、あかちゃん作戦、うっ、うんん、こほん、さくら、パパにめぇ~っ、ってしてあげてぇ、マックスが可哀そうでちゅうぅって。」

 「・・・ラヴさん。」

 「はい、あなた。」


 「違います、僕をそう呼んで良いのはドロシーとルイーズです、一応聞いたげます、さくらって誰です。」

 なっ、止めて下さいよ、何でそんな悲しにするんですか。


 「さくら、悲しまないで、あなたは間違いなくパパの子よ。」

 お腹をさすって、・・・お芝居しばいをしても無駄だぞ。

 がらがら。「「ゆたか。」」

 ちっ、違う、何もしてないっ。


 「ルシール、パパがママとドロシー以外の女の人と、兄妹をつくっちゃた。」

 しくしく。

 「ドロシア、・・・ママ、どうしたらいいのぉ、ドロシアぁ。」

 しくしく。

 「「うわあーーーーーーーん。」」どたどたどた。

 走って、行っちゃたよぉ。


 「まっ、待ってドロシー、ルイーズ、愛してる、昨日もいっぱい。」

 どたどたどた、帰って来た。

 「ゆたかのあほっ。」「ゆたかのばかっ。」

 「「シャワーに行くのぉー。」」


 「さあ、お嬢様、お食事の用意が出来ていますよ。」

 「有難うマリィ。」

 ひもじくても、ドロシーとルイーズと、三人だけの時間が懐かしい。


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