第62話 お猿さんの方が良いっ

 「あーもうっ、やっぱりラヴさんが犯人じゃないですか。」

 「可哀そうだけど、警察に。」


 「いやあー、止めてぇー、出来心何です、ここに来れば必ずドロシーちゃんかルイーズちゃんがいて、可愛い尻がぷりぷりゆらゆらしてると思ったらつい。」

 「何が『つい』ですか。」これはマリオンさん知ってたんじゃ。


 「依頼者が犯人って、何処のB級、・・・いや、ランク外の小説ですか。」

 「あっ、それはゆたか様、言い過ぎですわ、“小説家になったろか”も“カクヨン”も、異世界物にかたよった読者しかいない中で、それ以外のジャンルを書いて読ん頂くのは、大変なろうを要するものなのですわ。」


 「何処にうったえてるんですか。」

 「さっ、さあ~ぁ。」


 「とにかく、依頼はこれで完遂かんすいですね。」

 「いいえ、ゆたか様、お嬢様は通りすがりの痴漢ちかんで御座います。」

 「マリィ~、皆がいじめるのぉ~。」


 「はい、ではお屋敷に戻り。」「嫌っ。」

 「旦那様と奥様がお帰りになりま。」「嫌っ、嫌っ、嫌っ。」

 「ではどうなさるのですか、寮に戻る所はありません。」

 あっ、そんなうるうるした目で見ても泊めませんよ。

 「ゆたか、負けちゃだめっ。」

 「私のお尻を好き放題した人なんだから、負けないで。」


 「さっ、お嬢様、お屋敷で殿方がお待ちです。」

 「あんな人の子供を身籠みごもるぐらいなら、お猿さんの方が良いっ。」

 「分かりました、では類人猿の雄を、お連れします、ゴリラですか、森の賢者ですか、チンパンジー、ボノボ。」


 「マリオンさん、いくら何でも。」

 「嫌あーっ、お助け下さい、ゆたか様。」

 参ったな、取り敢えず手錠を外そう。

 「まあ、そのままじゃ、歩けないですし。」

 「「うーん。」」

 「まあ、それは仕方ない。」

 「ゆたかやさしいから。」


 「取り敢えず手錠を外しますから、家の嫁に手をださいで下さい。」

 「うん、分かった。」かちゃかちゃ。かちゃかちゃ。

 「立って下さい。」


 僕はラヴさんに手を差し出す、相変わらずうるうるしてる。

 うーん、仕方ないなあ、僕は片ひざを突き、再び手を差し出す。

 彼女がそっと手を乗せる。

 彼女が立ち上がるタイミングに合わせて、もう片方の手を取り、ラヴさんを支える。


 僕もだけれどラヴさんも泥だらけだ。

 「わあああぁぁぁーーーー、行くところが無いのぉぉぉーーーっ。」

 「「あっ。」」

 ラヴさんが抱き付いて泣き出した。「「離れてっ。」」

 ドロシーとルイーズが引き離す、一旦いったん離れて、二人に抱き着き直す。

 「嫌っ、嫌っ、嫌っ、嫌っ、嫌っ、あんなの嫌あぁぁぁーーーっ、わあーーー。」


 余りにも必死の様子で、ドロシーもルイーズも困惑こんわくしている。

 「とっ、とにかく離れて。」

 「ゆたかどうしよう。」


 「問題は大変シンプルで御座います、ゆたか様が、お嬢様とえっちい事をして、お子を作って下さればよいのです、サッカーチームが作れるぐらいが望ましいですね。」

 「だめ、だめ、だめ、ゆたかは、私達だけで十分なの。」

 「ルイーズのえっち。」

 「ちっ、違うのぉーーー、ドロシーのあほーーーっ。」


 だめだこれ、捕獲ほかくした依頼主が、わあわあ泣いて、今日はこれ以上続けるのは無理だ。

 通り過ぎる人が足を止め始めた、真の犯人があの中にいたら、もう来ないかもしれない。


 「人が集まって来そうなので、移動しましょう。」

 「わーーー。」

 「「ゆたかぁ~。」」

 「車の方へ、お送りします。」

 「分かりました、取り敢えず僕達の家に。」


 あぁ~あ、トラブルがなければ、ドロシー、ルイーズとプチデートをしてお金がもらえる、美味しい仕事だと思ったんだがなあー。


 「いやいやいや二人と後ろにろるぅのぉ~。」

 あーもう。「ドロシー、ルイーズ、いい。」

 「大丈夫そうだから。」

 「まあー仕方ないかなあ。」


 「ドロシー様、ルイーズ様、有難う御座います、ではゆたか様は、死亡確率の最も高い助手席に。」ばたん。

 「・・・分かりましたよ。」ばたん。

 ばたん。「シートベルトをなさいましたか。」

 「「Yes。」」「わあー。」「お願いします。」


 「ゆたか様、太ももをなでなでしないで下さい、事故を起こしますので。」

 「「ゆたか。」」

 「してないしてない。」

 「冗談じょうだんですよ。」


 車の中はラヴさんの泣き声以外聞こえない。

 とても静かだ、さすがは黒塗り高級車、マリオンさんの運転も丁寧ていねいだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る