第60話 僕もちゃんと学習してるんだ

 家を出て、公園に向かう途中、普段は出向く事のない道を、あらかじめプリントアウトして置いた地図を見ながら歩く。


 「ドロシーは右側見て、ルイーズは左側ね。」

 「「あい。」」僕はナビ役。

 「ルイーズ、見て見て、このお寺おっきいぃー。」

 「えっ、これお寺、でかーい。」

 「あっ、次は、このお寺を背にして、正面の道ね、坂になってるあの道。」


 僕等はもと来た道を左に曲がる。

 「うわー、両側に竹と木、街灯も無い、こっわ。」

 まだ夕日が残っているが、ここは両側の樹木で暗い、木々の中に隠れられたら分らない、二人の足が早まりそそくさと通り過ぎる。


 これを過ぎると、民家のブロック塀がしばらく続いた。

 「この十字路左ね。」

 「この辺にいるとしたら、家の中じゃない。」

 「まあ、隠れそうな所探してみて。」


 そうして進み、いつもの見慣れた道に出た。

 「次のT字路で右に曲がるよ。」

 「「は~い。」」

 T字路から右に曲がったここは、真っ直ぐに進める道がない。


 「ゆたか、又家の前にでたねぇ。」

 「何ここ、行くとこ行くとこ、道じゃなくて家に当たる、変なの。」

 「まあまあ、公園に向かう途中だから、左ね。」

 「「は~い。」」

 と、こんな感じで、ジグザグに道を進んで来た。


 丁度、30分で駅前に到着、ここから待ち伏せをする公園まで2~3分だ。

 「その気になれば、隠れる場所はいっぱいあったね。」

 「街灯も少ないし、空き地や駐車場、木も思ったより多いし。」


 そして3分遅れで現場に到着。

 「はい、到着。」

 「いよいよだね、ゆたか。」

 「この前来た時より暗いじゃん。」

 「うーん、木で光がさえぎられてるね。」

 「ゆたか、直ぐ来てね、絶対だからね。」

 「やっぱり止めようか、僕は。」

 「ドロシア、ママ頑張るからね応援してね。」


 「・・・じゃあ、どっちからする、ここで1時間、30分ぐらいしたら、温かい缶コーヒーでも持って来るよ、おトイレは大丈夫、あっ、休憩きゅうけいも兼ねて30分交代にする。」


 「ルイーズ、じゃんけんしよう。」

 「ふふん、返り討ちにしてくれる。」

 「最初はチョキ。」

 「えへへへっ。」

 おっ、引き分けた、ドロシーはいつも『最初は』で負けてしまう。


 「どっ、ドロシーが学習した。」

 「ちょっ、ゆたかみたいに言わないで。」

 「えーっ、ドロシー、酷くない。」


 「じゃあ、この前私が言ったなぞなぞ分かった。」

 「鏡の国のミルクの話。」

 「うん。」

 「・・・御免さない。」


 「えー、何で、すっごく簡単だったに、異性体を使ったなぞなぞじゃん、もう少し具体的に考えると、キラリティーも考慮に入れないと思ったけど、なぞなぞだと十分だと思うけど。」

 「だって、僕、生命とか、分子とか、専門外だし。」


 「でもドロシー、私の言ってる事わかるよねぇ。」

 「うん、この前話してた、バリスティックトランジスターの、電子の弾道軌道に関する考察とか、量子メモリーに関する電子のスピン量子数と到達距離も、結構面白かった。」

 「・・・御免なさい、僕には分かりません。」


 あー、やっぱりこの二人はすごいなあ、僕は相応ふさわしくないんじゃ。

 「あー、ゆたかゆたか、私達の好きな食べ物は。」

 「うーん、ドロシーはベリー系が好きで、特に甘い苺が好き、ルイーズは、チョコレート、ほろ苦いやつが特に好きだよね。」

 「ごめんなさい、ゆたかは、私達の事を見てくれてるんだね。」


 「ゆたかはちゃんと学習しているのだ。」

 「そうさ、僕もちゃんと学習してるんだ、ドロシーは『飛んでっちゃう』って言うし、ルイーズは『何かくるぅー』って言うから、痛い、痛い、痛い、痛い。」

 「言わないぃ、あほぉーーーっ。」

 「言ってないぃ、ばかぁーーーっ。」


 両側から脇腹をつねられた。

 「痛いよ二人ともぉー。」

 「「ふんっ。」」

 「僕のお嫁さんは何をしても可愛いね。」ちゅっ、ちゅっ。

 「お仕事しよう。」

 「「もうぉ~。」」

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