第44話 調査結果

 ピンポン、ピンポン。

 「ゆたか、出て来て。」

 「奴が来た。」


 ピンポン、ピポピポピポ、ピンポン。

 「二人共、おトイレ行った。」

 「「行った。」」


 ピポピポピポピポピポピポピポピッポン。

 「じゃ、お茶とお菓子を用意して。」


 ピポピポピポピポピポピポピポピンポン、どんどんどん。「でぇ~てよぉ~。」

 「二人共、準備して、事務所の奥に引きこもって。」

 「「あいっ。」」


 どんどんどん、どんどんどん。「何でようぉ~、でろよぉ~~~、もううう。」

 どんどんどん、どんどんどん、どんどんどん。

 「ゆたか、良いよ。」


 どんどんどん。がちゃがちゃ、バーーン。

 「ちょっと、危ないじゃないですか。」

 扉のにチェーンを掛けて置いて正解だった。

 「何で意地悪するのぉ~~~。」


 「意地悪なんかしてませんよ、今開けますから、がってください。」

 きぃー。かしゃかしゃかしゃ、じゃら。

 「おっと。」

 凄い力で扉を開けようとする。「う~~~ん、あ~け~ろぉ~よぉ~。」


 「開けますから、手を放して下さい。」

 「ほんとよ、本当に開けてよ。」

 きぃー。ばっし。「ドロシーちゃ~ん。」かつかつ、どたどたどた。


 しまった、押しのけられた。がらがら。「ルイーズちゃ~ん、ど~こぉ~。」

 やっぱり寝室の方へ向かった、今のうちに事務所に。

 がらがら。「二人共、奥に、来た、来た、来た。」


 「「いやあーーーぁ。」」

 「いたあーーーっ、み~つけたあーっ、あっ、ちょっと、何で椅子で阻むの。」

 「家の嫁にちょっかい出すの止めて、そこに座って下さい。」

 「じゃあ、私がそっち。」


 「ダメですよ、説明できないじゃないですか。」

 「嫌っ。」

 「百合ゆりさんの住所、調査済みですよ。」

 「わっ、分かりました。」

 欲望に素直な人だなあー、僕より凄いよ、やっとソファーに腰掛けた。


 ラヴさんはよだれを垂らしながら、家の嫁達をガン見している。

 「横のティッシュでよだれを拭いて下さい。」

 「あっ、おーっと。」


 プロジェクターで、ホワイトボードに報告書を表示する。

 勿論もちろん、お帰りの際には、プリントアウトした物をお渡しする。

 「ラヴさん、ボード見て下さい。」

 「大丈夫、耳で見てるから、うへへへっ。」


 「ゆたか、見てるよぉ~。」

 「暫く我慢して。」

 「うーーー可愛い~。」


 「じゃ始めます、今回の調査の目的は、妹音いもおと百合ゆりさん、レイプ未遂犯の有用な手掛かりを探す事です。」

 「まず、結論から述べますと、犯人自体の手掛かりはつかめませんでした。」


 「そうですか、だめでしたか。」

 おっ、ボードに目を向けた、良かった。

 「しかし、面白い事が分かりました。」

 「何か分かったんですか。」


 「説明します、僕達は先にお話しした計画通り、青い葉っぱの森公園の周辺を聞き込みました、噂や女子学生へのアンケートから、犯人が青い葉っぱの森球場、千波寺駅、私立千波大学付属、この三つを頂点とする、三角形の範囲で活動していると思われる事が分かりました。」


 「そんなに広いと捜し様がありませんねぇ。」

 「そうです、ここまでだったらそうです、しかし、もう一つ面白い事があります。」

 「何ですか。」


 「こちらを見て下さい、犯行があったとされる日時と犯行があったとされる場所を、地図にプロットした図です。」

 「・・・移動してますね。」


 「そうです、現在に近付くにつれて千波寺駅周辺に近付いて来ています。」

 「・・・駅に近付くにつれて、時間が早くなってる様な。」

 「気付きましたか、時刻を色々調べて見たんですが、この犯人、どうやら日が落ちた直後の短い時間帯にだけ犯行を重ねているんです。」


 「日が落ちた直後って、まだ明るいですよ、相手の顔とかはっきり見えますよ。」

 「そうです、隠す気がない、と言うより、わざと見える様にしているのではないかと。」

 「・・・わざと、ですか。」


 「親しい人に成りすます為、わざと見える様に、でも細かい所が見えない明るさ、そうした狙いがあるものと推察すいさつします。」

 「・・・駅に近付くにしたがって、減ってますね、あー、でも最近の日付は増えてる。」


 「最近の増加傾向は良く分かりませんが、減ってきたのは寒くなって来たからじゃないかと。」

 「確かに、寒いとお外じゃできないもんね、駅の周辺って、温かいのかしら。」


 「増加の原因は分かりません、あー、一つ聞いて良いですか。」

 「え~何、スリーサイズ、上はね~、アンダー70のDで。」やっぱりでか。

 「違います、百合ゆりさんは、事件に遭遇した時に、ラヴさんがお尻をすんすんしたって言ってませんでしたか。」


 「う~ん、いっつもすんすんしてるから。」

 してるんかい、だから疑わない。

 「ゆたかさんもしてるでしょう。」

 「痛いっ。」脇腹わきばらつねられた。


 「ほ~らね~、これが何か。」

 「アンケートで、レイプ未遂が発生する少し前から、この手の痴漢行為が急増していて、駅前で増加傾向にあるのもこれなんです。」

 「それじゃあ、夕暮れ時に、駅の周辺を探せば捕まえる事ができるんじゃないですか。」


 「いやぁ~、それは難しいかと、犯人も警戒してるでしょうし。」

 「私がおとりになります。」

 「いやぁ~、それも無理かと。」


 「私、けっこういけてると思うんですけどぉ。」

 揺らさなくていいから。

 「ゆたか。」「見ないのぉ。」

 「そう、言われても。」

 「「ゆたか。」」

 「御免なさい。」


 「ほらほら。」

 揺らさないで、止めて下さいって。

 じ~~~~~っ。

 「あーっ、ラヴさん高2でしたね、お幾つですか。」

 「17ですぅ、歳は自動加算されるんだから仕方ないでしょう、そんなに若い子が良いんですか、求人見たいに努力のしようがない事を理由にされてもぉ。」


 「いや、僕じゃなくって。」

 「じゃあ、ゆたかさんはOK。」

 「ゆたかダメ。」「のせられちゃ。」

 「僕じゃないです、犯人です。」


 「でぇ~、若い子が好みぃ~とか言うんですかあー。」

 「そうです。」

 「なあーーーっ、私まだ17ですぅ。」

 「だから犯人ですって、聞き取りで被害にあったと答えた子の年齢層が、12~15なんです、だから、まあ、あくまで予想ですけど、ラヴさんでは無理です。」


 「ゆたか、結局、犯人について何が分かったの。」

 「そうだよね。」

 「まとめると、男で、誰にでも化ける事ができて、寒いのが嫌いで、女の子のお尻をすんすんするのが大好きで、12~15歳ぐらいの女の子が超好み、・・・てな感じ。」


 「・・・ねぇ、ドロシー。」「何、ルイーズ。」

 「だって、『誰にでも化ける事ができる』と言うのを除けば。」

 「言っちゃダメ。」


 「何々、ドロシーちゃん、ルイーズちゃん、心当たりがあるの。」

 「男で、寒いのが嫌で。」

 「ルイーズ、言っちゃダメだってば。」


 じ~~~っ。

 「・・・さっきつねられてた、ドロシーちゃんとルイーズちゃんの歳はどう見ても、・・・確かに一人いる様なぁ。」

 「ゆたかは違うの、いつも私といるから、アリバイがあるから。」

 「いやいやいや、僕と同じ趣味趣向の人なんていっぱいいますよ、現に僕の目の前に一人。」


 「・・・私、どうして私。」

 「男と言うのを除けば、男が女装するのは難しいですが、女性が男装するのは、昔からよくある話ですし、レイプ事件ではなく、痴漢事案の犯人は思った通りラヴさん、なあーんて事、はないですよね、もしそうなら報告書、再検討しないといけないんですけど。」


 「してません。」「本当ですね。」

 「・・・してません。」「本当に本当ですね。」

 「・・・出来心なんです、二人だけなんです。」


 「したんですか、たくもう、それ、覚えてますか、ここのデータに表れてますか。」

 「・・・すみません、本当に出来心なんです、可愛いお尻が目の前で、ゆらゆらぷりぷりしてたから、つい。」


 「すんすんしたと。」

 「はい、さわさわもしました。」

 「気持ちは分かりますけど、だめですよ。」

 「「ゆたか、屋上行こうか。」」


 「あっ、あはははっ、二人共、怖いよ、今はお仕事しよう、ねっ、ねっ、それで、心当たりのデータありますか。」

 「これと、これ。」

 「やっぱ、駅前ですか。」

 「でもこの二つだけです。」


 「本当か、本当にこれだけか、・・・なーぁ、全部はいちまって、楽になれよ。」

 「私、・・・これだけです、他は私じゃありません、信じて下さい。」


 「百合ゆりさんが泣いてるぞ、きれーになっちゃえよ。」

 「もうぅ、してません。」


 「すると、・・・待って下さい修正しますから、余り変化ありませんね、ルイーズ、プリンターの電源入れて。」

 「嫌っ。」


 「ほら、僕とドロシーは手がとどかないから。」

 「自分でして。」


 「そんなに怒らなくても、僕はドロシーとルイーズだけだよ、明日、明日、ケーキ買ってくる。」

 「本当。」

 「ほんとほんと、プリンも買って来る。」

 「ゆたか、私も。」

 「分かってる、モンブランとカスタードプリン、ちゃんと買って来る。」


 「「わあ~い。」」ぽっち。

 「プリントアウトした物と差し替えて。」

 「あい。」

 「はい、報告は終わりました、ルイーズ差し替えた。」

 「は~い、これね。」


 がさがさがさ。僕は茶封筒の中を確認した。間違いない。

 僕は営業スマイルに戻る。

 「お待たせしました、これが報告書です。」

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