第38話 A4で100枚、一枚20回分

 離れていては作業がしにくいのでラヴさんの隣に座る。

 「よろしくお願いしま~す。」

 「では、確認させて頂きます。」

 「・・・、・・・はい、16万8000まどか、丁度ですね、もし次も依頼されるなら、振込にして下さいね。」


 「ねえ、ルイーズ、連絡、遅くないかな。」

 「ん、カスクートも食べる。」

 「ルイーズ、心配じゃ無いの。」

 「えぇ、何が。」「ゆたか。」


 「はい、領収書です、後で明日からの活動計画をお話します、で少し向こうの事務所でお待ち下さい、僕達これから昼食なんです。」

 「嫌ですぅ、ここに居ますぅ、はぁ~いこ、れ、『私を好きにしていい』券、19回分、今から一回分は使ちゃいまあ~す、それぇ~。」


 「何で。」

 「あの人、昨日殿方も、とか言ってた様に思うの。」

 「ドロシー、自転車鍵して、荷物持って、また浮気する。」

 「あー、待って。」


 あー、何だこれ、ドロシーともルイーズとも。

 「ラヴさん、離れて下さい。」

 「えぇ~、そんなふうには、見えないなあぁ~、ほら、ほぉ~らぁ~。」

 何と、・・・実にけしからん、・・・ほんと大きいなあ。

 「はっ、離れて。」


 きぃー。どさどさ、どたばたどたばたどたばた。

 「「ゆたか。」」

 「ドロシー、ルイーズ。」

 「えぇ~、もうぅきたのぉ~。」


 「浮気者。」「裏切り者。」

 「違う、違うよ、二人共。」

 「何がどう違うの。」

 「女の上にまたがって。」


 えっ、あれ、さっきまで僕の方が押し倒されていたのに。

 「どう見てもゆたかが襲ってる様にしか見えない。」

 「いやらしいー。」

 「途中で止めちゃいやぁ~。」


 「「あーっ、離れてえぇーーー。」」

 「きたあぁーーーー、二人共つかまえたああああああっ。」

 「「いやあぁーーーっ。」」

 「ちょっと、ラヴさん、やーめてっ。」


 「あ~ん。」

 ばちばちん。「「ゆたかの。」」

 「ばかあーーーっ。」「あほおーーーっ。」


 「いったぃ、もうお、百合ゆりさんに浮気の報告書送りますよ。」

 「御免なさい、もうしません、止めて下さい。」

 「ゆたかこっち。」

 「もうぅー、早く降りてえー。」

 ラヴさんが固まった、これは効き目がある。


 すっかり大人しくなったラヴさんは、借りて来た猫の様で、事務所で大人しく待っていてくれた。

 その後も別人のごとく、僕達の説明を聞き、『よろしくお願いします』と、しおらしくお嬢様ぽっく帰っていった。

 もうーっ、ずっとそうしてればいいのに、しかし本当に百合ゆりさんの事が好きなんだなあ、効き目抜群ばつぐんだ。


 「あー、学校も仕事も行ってないのに、疲れたあー。」

 がらがら。「ドロシー、ルイーズ。」

 あれ、二人そろってトイレ。

 いや、こっち来る時見なかったな、この狭い家の何処に。


 どたばたどたばたどたばた。「「ゆたか。」」

 「何これ。」

 「どうしてまだあるの。」

 二人が寝室に駆け込んで来た。

 うーん、何、何の事、えっ、どうしてそれが。


 「ねえ、ゆたかさん、説明して下さらない。」

 「僕は知らないよドロシー。」

 「あの女を『好きにしていい』券、A4で100枚ぐらいあるんですけどっ。」


 「ルイーズ、本当に僕は知らない。」

 「それじゃゆたかさん、机の引き出しの奥に隠してあったのは、どの様にいい訳なさるのかしら、ね~ぇ、ルイーズ。」

 「今日と言う今日はぜったい許さないから。」ばさばさばさばさ。


 A4に20回分が印刷された『私を好きにしていい』券100枚が宙を舞う。

 どさっ。「「ゆたか。」」

 「ゆるさいから。」

 「よそ見はさせないからねっ。」


 わあぁ~い、浮気の罰だあ~、ラッキー、明日はお休みにして、調査は明後日あさってからにしよう。

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