依頼人(ラヴさん)の直接入金

第37話 入金に来ましたぁ~

 やっと着いた、もう14時半だ、昼食と言う時間じゃないな。

 日の傾くのが早い、それに伴って、気温の下がるのも早い、ちょっと寒いな。

 あれ、先に家に着いているはずの二人が、バス停の前で自転車にまたがって待っている。


 「あれ、二人共どうしたの、鍵忘れた。」

 「違うのゆたか。」

 「あいつが来てるの。」

 「あいつって。」


 「昨日の女。」

 「ラヴさん。」

 「そう、あの人。」

 「また追いかけられた。」

 「私達が帰って来るのを待ち伏せてたみたい。」

 「見つけた途端に走って来て、自転車に乗って無かったら捕まってた。」

 僕のお嫁さんを追い回すとは、けしからん、一言言わねば。


 「ドロシー、ルイーズ、ここに居てもご飯食べれないし、取り敢えず帰ろう。」

 「「うぅーーーーーっ。」」

 「トト見たいにうならない。」

 僕が先頭で、二人共自転車を降りて、一列に続く。


 家の近くまで来ると、階段のそばで、まらなさそうにしている一人の少女がいる。

 ボーイッシュな髪型に、首周りの大きいゆったりとしたハイネックのセーターに、膝下まであるフリルの付いたスカート、ソックスにスニーカー、肩に掛けた小さめのカバン、とても清楚な感じの女の子だ、外見は。


 僕達を見つけると、それはそれは嬉しそうに明るく笑う。

 そして彼女は、獲物えものに気づかれまいとする山猫の様に、足音を立てずにゆっくりと近付いて来る。

 その顔は、先ほどと同じ人とは思えない。


 あの素敵な笑顔は失われ、垂れ下がったまゆ、垂れ下がった目じり、だらしなく開かれた口からは、きたならしくよだれが流れ出す。

 二人が恐れおののき、僕の後ろに隠れる。


 あーーーっ、もう、さっきのままでいろよ、ラヴさん。

 「うへへへっ、ルイーズちゃわん、ドロシーちゃわん、やっと帰ってきたぁ~。」

 「ラヴさん、僕のつ、つ、お嫁さん達がおびえるので、がってください。」


 僕はポケットティッシュを差し出す。

 「よだれ、拭いて下さい。」

 「えへっ、御免なさい、細い線がたまらん。」

 「「いやぁーっ。」」


 「それで、本日はどの様なご用件で。」

 「あ、あ、お金、入金に来ましたぁ~、えへっ。」

 「よだれよだれ。」


 いやあー、人と言うのはどっかに受け入れがたい部分があるもんだな、20歳そこそこで悟っちゃうよ。

 ドロシーとルイーズは何をしても可愛い、贔屓ひいきかな。


 「ドロシー、ルイーズ、ちょっと待ってて、あー、さっき買ったサンドでもかじってて。」

 「ゆたかは。」

 「先に上がって、ラヴさんと話をつける。」

 「私達はいつ帰れるの。」

 「ラヴさんが落ち着いたら、電話する少しだけ待って。」

 「「は~い。」」

 「ラヴさん、取り敢えず上がって下さい。」

 「はあ~い。」


 僕の後に付いてラヴさんが階段を上がる。

 「今開けますから。」がちゃがちゃ、きぃー。

 「どうぞ上がって下さい。」

 スリッパを揃えて床に置く。

 「失礼しまあ~す。」ぱたぱたぱた。


 「あっ、そっち事務所じゃないですよ。」

 がらがら。「待って、そっちは僕等の家です。」

 ちゃかりとエアコンとホットカーペットを点けてる。

 「こっち、こっちぃ~。」と自分が座る横の床をぽんぽんする。

 「待ってて下さい、・・・領収書と印紙持ってきますから。」


 「うぅん、このクラブハウスサンド美味しい。」

 「うんうん、本当、美味しい。」

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