第12話視点C

昼休みミャー子が珍しく絡んでこないと思っていたら、代わりに悪友の下田が話し掛けてきた。


ミャー子と同じくこいつも小学校からの付き合いだ。そんな下田とは何かと縁があるのか、今年もクラスは同じだ。

「昨日リアリタイムで見たか南沢?」主語はないがそれだけでなんのことなのか察する。おそらく深夜アニメ、キラキラマリリンのことだろう。


下田は昨日のことを思い出しているのか、昼間っから興奮気味に僕の机を強めに数回バシバシと叩いた。興奮している下田には悪いが僕はその時間帯ぐっすりと眠っていた為、あいにくアニメは見ていない。


それ以前に最近アニメをあまり見ていない。いつかは下田に卒業したこと告げないとな。

僕が見ている前提で昨日のことを早口で楽しげに話す下田を見ながら、そんなことを考える。


「あれ? お前もしかして見てないの?」僕が相槌ばかりで話に乗って来ないのが、気になったのか下田がアニメ話を辞めて僕に問いかけた。

ああバレてしまったかどうしよう・・・。

下田にひつこく勧められたので、その場しのぎでつい、キラキラマリリンを見る見ると言ってしまった手前、今更見ていないなどと言える訳なく。見ている体で話を受け流していたが、どうやらバレてしまったみたいだ。とりあえず、いつも通りの言い訳である、録画していることを告げようと口を開いた。


しかし、「嘘だろそれ。お前は見てもいないし、録画もしてない」下田は作り笑いを浮かべると僕の嘘を難なく見破ってしまう。


今日の下田は変だ。

いつもならアニメを録画していると言えば、例え嘘だと分かっていても納得するか、軽い冗談を返すのだが。今日の下田は何故かやけに直接的すぎる返しをよこす。それに言葉も少し棘がある。もしや知らず知らずのうちに下田の鬱憤を溜めていたのかもしれない。


下田の態度に慌てた僕は彼に素直に謝罪する。謝り終えると下げていた頭を上げる。下田の表情は相変わらず硬かった。


僕のせいで気まずい空気が漂う中、下田は無言で僕にまっさらな紙を手渡して来た。「心から謝罪する気持ちがあるなら、今から俺の言う通りの言葉を書け」


下田の提示した条件は、あまりに予想外のことだった。


そんなお願いを聞けるわけがない。下田に提示した条件は飲めないことを伝えると、条件が飲めないなら絶交すると下田はふざけたことをぬかす。


流石に頭に来たので勝手にすればいいと言ってやると、下田はあろうことかその場で頭をつきながら土下座をした。びっくりしたと同時に周りの視線がいたく刺さる。


止めるように言ったが、下田が顔を上げることはない。おかしくなってしまった悪友を止める為、仕方なく僕はその場しのぎで下田のお願いを聞き入れた。


下田が突然変異してしまった原因がわかった。本人が泣きながら謝りゲロってくれた。どうやらとある人物にお願いされて、金に目がくらみ、僕にわけのわからないお願いをしたようだ。


下田によると僕が書いた手紙は悪用するつもりはないと言っていたが、全く信用ができない。必ず変なことに使われるに違いない。


下田は後できつく懲らしめるとして、下田に金を掴ませた人物はどうしようか。直接文句を言ってやろうとしたが、下田に全力で止められた。もう既に金をいくらか貰ったらしい。


この話を聞いて後で下田を殴る回数が増えた。だいたい、何が目的なのか知らないが軽い恐怖だ。どうしようか。臆病な下田の手前、下手に派手なことはできない。僕は真っ白な手紙をしばし眺めてある仕返しを閃いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る