猫の国2
<<ミャウシア北東の沖合>>
ミャウシア北方海域でイギリス海軍による潜水艦拿捕が行われる中、洋上では長い航続距離を持つ戦闘攻撃機や爆撃機が偵察に出ていた。
「こちら特務偵察飛行隊1番機、ムムリ。定時報告を行う。我、今だ会敵せず目標の陸地の姿見えず。進軍継続せり」
爆撃機の機長は報告を終えるとあくびをする。
あくびを終えて外を見渡すと60機程度の航空機が見える。
これらの編隊は爆撃機を足の長い重戦闘機が援護する形を取っていた。
重戦闘機の中に先日のパイロットたちの混じっていた。
「ん?」
計器の中にあるランプが点滅しブザーがなる。
搭載されているレーダーが敵機を捉えた警告音だ。
この重戦闘機の機首には初歩的なレーダーが積まれていてレーダースコープを覗いて敵機を確認できる。
パイロットはスコープ覗いて1時方向に敵がいることを確認する。
「こちら16番機、レーダーで方位322に敵影確認。分隊で迎撃する」
「こちら一番機、迎撃を許可する。」
フニャンは敬礼すると操縦桿を倒し、11時方向に転進する。
イギリス空軍トーネード戦闘攻撃機
「こちらブレスト1、編隊から一部が離脱しこちらへ接近してくるのをレーダーで捉えた。指示をくれ」
「こちら管制、ブレスト指示を待て」
「こちらブレスト1、了解、進路を維持する」
トーネードのパイロットたちは不安がる。
「さっきから待てだの変針しろだので燃料残ってるのは俺らだけだぜ。他は補給に戻っちまって大丈夫なのかよ?」
「対応を決めかねてるんだ無理ない。撃墜はたやすいが政治はそれを許さない。俺らは命令に従うだけだ」
「だが後20分で陸地だ。そろそろ限界点に差し掛かる。陸地に入られてからではだめだ」
「こちら管制、ブレスト聞こえますか?」
「こちらブレスト1、どうぞ」
「こちら管制、威嚇射撃を許可する。航空部隊に威嚇攻撃せよ」
「了解」
2機のトーネードが変針する。
「接近中の航空機に威嚇後、主力編隊に威嚇する」
フニャン機
「敵機、上方!」
機体を揺さぶり僚機であるアーニャン機に知らせる。
目標がすでに攻撃態勢に入っていると察知し、回避行動に入る。
トーネードが降下ざまに威嚇射撃を行う。
ガトリング砲とは違うリボルバーカノンの発砲音が鳴り響く。
もちろん威嚇なので命中はしない。
フニャンたちも命中しない方向に撃っているのを見て威嚇だと気づく。
2機はそのまま編隊方向へ飛び去っていく。
「させない」
フニャン達はすかさず追いかけるが全く追いつけずに引き離された。
「敵機がそっちに向かった、どうぞ」
しかし、返事がない。
それどころかさっきから激しいノイズが入ってまともに無線機を聞けなくなっていた。
ジャミングをかけられたのだと気づく。
となると自分たちにできることはもうないと悟ってしまった。
「なんて敵」
とにかく特務偵察飛行隊に向かって飛び続ける。
特務偵察飛行隊
「敵機だ。撃て撃て、圧倒しろ」
爆撃機や重戦闘機が機銃で弾幕を張る。
トーネード2機は上空を一度素通りした後旋回し降下ざまに威嚇射撃を行う。
バババババッ!
そして飛行隊の前方上空に出るとトーネードはフレアを撒き始めた。
さすがの飛行隊もこれには驚き進路変更せざる負えなかった。
しかし回避しただけでまた元の進路を取り始める。
「敵の威嚇に屈するな!見ろ、陸地が見え始めたぞ」
遂に肉眼で陸地を確認できる距離まで詰められてしまっていた。
偵察飛行隊の士気は高く、威嚇程度ではびくともしないとイギリス軍側も悟りはじめる。
トーネードは飛行隊の周りに張り付くが到着したフニャンの分隊と同型機の他の分隊に追い回され始めてまともに近づけなくなってしまう。
もう威嚇も威圧も通用しないとなると最終手段しか残されていない。
「こちら管制、ブレストへ。攻撃を許可します、目標を撃墜せよ。間もなく他の迎撃機も到達します」
「こちらブレスト1、了解」
トーネードは敵機の引き離しにかかる。
フニャンはそれを見て敵が攻撃態勢に入ったと察知する。
ウーに言ってフラッシュライトで味方に攻撃が来ること伝える。
護衛機は一斉に散開し始める。
そして6機のタイフーンが西から現れるとイギリス軍の総攻撃が始まった。
「こちらブレスト1、攻撃を行う」
「こちらイーター1、攻撃を行う」
手始めに護衛機をヘッドアップディスプレイに捉え、ターゲットロックする。
「イーター2、FOX2」
ASRAAMが発射され護衛の重戦闘機めがけて飛んでいく。
着弾すると爆発し機体がバラバラになる。
それを見たミャウシア軍機のパイロットたちは皆驚愕する。
見たことがない攻撃方法なのもそうだがその破壊力と命中率に恐怖した。
「引き返せー。あ、アレはやばい!」
爆撃機編隊が回頭を始める。
だが手の内を見せたイギリス軍にはミャウシア軍を一機も帰す気はさらさらなかった。
「FOX2、FOX2」
一機、また一機と撃墜されていく。
あまりに一方的な攻撃にミャウシア軍側は震え上がる。
「ロケットみたいなのが突っ込んでくるぞ!」
ミサイルが爆撃機に命中し爆発すると胴体がまっぷたつに割けて失速しひらひらと落ちていく。
「うあああああ」
爆撃機の乗員が機外に放り出される。
タイフーンとトーネードの攻撃で飛行隊は統制不能になり各機散開して逃走し始めた。
それを見たいたフニャンは味方の援護を諦め単独での逃走を図るため南に向かって高度を落とし加速を始めた。
相棒であるアーニャン機もついてくる。
「隊長?」
「敵の死角に逃げる。誰かが情報を持ち帰らないと」
フニャンは敵をある程度分析できていた。
展開の手際の良さから敵はレーダーサイトでこちらの位置を把握していて、おそらく敵機の先端のレドームにもレーダーが入っているはず。
だから低空に入ってなおかつ敵のレーダーの死角に入らないと延々追われる。
敵が西側へ逃げる他の味方にかまっている今のうちにでなければアウトだ。
とにかく海面ギリギリをはうように南に向かって飛んでいく。
イギリス軍機
「こちらの空域の敵機は全機撃墜した。周囲に機影なし」
「こちらも今全て撃ち落とした。どうぞ」
「こちら管制。補給のため帰投してください。進路はこちらで指示します」
「こちら警戒管制機、ホビック。低空索敵モードで第4空域に取り逃がした残存機の反応があった。目標は既に南群島上空に到達していると思われる。大陸まで300kmしかない、至急追撃せよ」
「こちらレイピア2、残弾と燃料に余裕がある。追撃可能だ」
「こちら管制。レイピア、ホビックの誘導に従い目標を撃墜せよ」
「了解」
タイフーン1機が変針して加速を開始した。
その頃フニャン機と分隊仲間の僚機は海面を這うように南に飛び続けていた。
「隊長、もしかしてなんですけど本国に戻る燃料はもうないとか言わないですよね?」
「ない」
「やっぱりカー。どう考えてもそんなに残量なかったもんなあ」
「てことは、あたしら途中で不時着して歩いて本国目指すんですか?」
「そそ、それそれどうなんですか隊長?」
「もちろんよ」
「ですよね」
ウーはガッカリそうに言う。
「でも逃げ切れなければ落とされていった者たちは報われない。今回の遠征でわかったことはなんとして本国に届けたい」
フニャンは少し悲しそうな表情で操縦を続ける
「命あってのものだねですからね。かくなる上はボロ雑巾になっても本国の土を踏むまでですよ。それはそうと本国東部ってどんなところなんですか?」
「・・・」
「あたしも気になる。軍部の発表じゃ大したことないって言ってるけど」
「もしかしてさっきの連中みたいな凄い奴らがわんさかいるとかおとぎ話に出てくるモンスターと書いたりして・・・」
「でも陸軍のおいらいがふんぞり返るほどだからそこまででもないかもね」
「・・・」
「隊長、どうしたんですか」
フニャンにはいつの間にか後方の空をじっと見つめていた。
「・・・何か来る」
「え」
他の乗員が声を出した瞬間、機体は急旋回し、脇にあった島へと飛んでいく。
僚機もそれに続く。
フニャンは小島の山の斜面ギリギリを飛ぶ。
すると二十秒後に上空を2発のミサイルが高速で通過していく。
「あ、あれは!」
イギリス軍タイフーン
「おい嘘だろ、気づくはずない。こ、こちらレイピア1、AIM-120がビーム機動と隠蔽で全弾かわされた。ミサイル残弾なし、ドッグファイトで仕留める」
タイフーンがフニャンたちに急接近してくる。
フニャン機
「みんな、しっかり掴まっててよ」
フニャンは機体を匠に機動させタイフーンの射線から逃げる。
タイフーンは捉えきれないと悟り、上昇していく。
上昇下タイフーンは再度攻撃を加えてくる、今度は僚機のアーニャン機を狙う。だがこれも匠に機体をロールさせて回避されてしまう。
フニャンもアーニャンも非常に腕の立つパイロットだったためタイフーンは予想以上に苦戦する。
アーニャン機
「准尉、やめてください、死んでしまいます。吐きそう」
「ウチの言うことなんか聞いてられっか。水平になった瞬間吐いとけ、吐いとけ」
「え、臭そうやめて」
「それよりフニャン隊長どうすんのこれ?いつまでこんな機動すんの、もう運動エネルギーないやん」
アーニャンはフニャンと同じアクィラ分隊のパイロットで元々は単発重戦闘機パイロットだったが異世界移転直後に僚機として配属された。
お互い賢く気が合うのでコンビネーションは抜群だった。
タイフーンは分隊をかき回しエネルギーをスポイルしたところで畳み掛けようと考えていたがいよいよ燃料がなくなってしまいとどめを刺すことができない状況に追い込まていた。
「こちらレイピア1、燃料が残り少ない。追撃は不可能だ」
「こちら管制、レイピア、帰投してください」
「了解。くそ、なんて奴らだ」
タイフーンのパイロットは捨て台詞を吐いて引き返す。
分隊一同に安堵の表情が浮かぶ。
「やりましたよ。これで大陸まで逃げ切れる」
だがフニャンの様子は厳しそうだった。
「どうしたんですか?」
「もう燃料が殆ど無い・・・」
フニャンはタコメーターをデコピンする。
ゲージは0に届きそうだった。
「100km以内に大陸につけなければそこらの小島に不時着する」
その言葉にみんなが凍りつく。
できれば避けたいことだった。
だが運は味方してくれた。
500m上昇すると大陸は直ぐそこに見えるのだ。
燃料をほぼほぼ使い切った分隊は海岸の砂浜に強行着陸した。
アーニャンは自機の燃料タンクから少し残っている燃料を手持ちの容器に入れ機体に浴びせる。
フニャンがマッチを取り出して投げると機体はまたたく間に燃え上がった。
そして一同は西に向かって歩き始めた。
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