ファーストコンタクト2

<<20XX年5月11日、日本、沖縄県キャンプバトラーの一角>>


二人のアメリカ軍海兵隊兵士が話していた。


「なあ、アレン。あれは運が悪かったんだよ。引きずることないぜ、そんな調子じゃ俺まで泣きたくなってくる。」


「ああ、わかってるよ、アンソン。選抜試験はこれで終わりじゃないもんな。」


「そそ、フォース・リーコンは次挑戦すればいいんだよ、それにこの調子じゃ特殊部隊でなくてもいずれ戦場に立たなくちゃならなくなるし、それじゃ泊がつくかつかないかの違いくらいしかない。急ぐようなことじゃないよ。」


「言い過ぎ、励ますつもりなら逆効果だよ。それより明日の昼に例の新作のオンラインイベントあるんだけど、お前も非番だよな。うちのクランに欠員出たから是非付き合ってくれよ。お前の実力なら十分通用するし。」


「それで元気になるなら安いもんだな。俺のエイムセンスに驚くなよ。」


「ああ、キルレシオに絶望するだろうから、ビール差し入れるよ。助かる。」


「ぬかせ。」


 そんな雑談に割り込むように位の高そうな将校が現れる。


「楽しそうな話をしているところ悪いが休暇はキャンセルだ。ベイカー少尉、フォスター少尉。」


アレン・ベイカー少尉は特に驚くそぶりをせずに質問する。


「何故です?少佐。」


「とぼけるんじゃない。遂にその日がやってきたんだ。これからは休暇はおとぎ話になる。覚悟しろ。」


「了解。」


「了解。」


「士官はブリーフィングだ。よしいけ。」


 二人は歩き出す。


「どうやらお前の励ましは的外れじゃなかったらしいな。」


「だろ、接待ゲームはなしだ。」


ブリーフィングが行われる部屋着くとそこにはたくさんの士官が座っていた。

席に着くと連隊長のフィリップス大佐が話を始めた。


「諸君、いよいよだ、準備はできているかね。できているなら結構だ。ではこの図を見てもらいたい。2時間前に広東省の基地を撮影したものだ。人民解放軍の駐屯部隊の移動が確認できる。だが、移動はこの部隊だけではない。各軍区の部隊が続々と移動を開始した。それだけではないヨーロッパの前線や他の前線でも同様の動きが確認された。」


「敵はサイを投げた。おそらく直にここにミサイルが飛んでくるだろう。だが恐れることはない。必ず我々が勝利を収めるからだ。なぜなら、この任務をやり遂げるだけの実力と勇気を諸君らは持ち合わせ、それを実現させるために積み重ねてきた努力を私は誰よりも知っているからだ。諸君らは敵の思惑を打ち砕き、奴らを交渉のテーブルに着かせることができると確信している。」


「では作戦を伝える。我々が当面対処すべきは冒頭で紹介したこの部隊だ。まず・・・」


連隊長は作戦を淡々と説明する。

アレンは不安だった。


それは沖縄に来てそんなに日は立っておらず、ローテーション期間中に戦争が始まるとは考えていなかったことが一番大きい。

けれどヒーローでなくとも誰かのためになれるのならと、このご時世だからこそ海兵隊に志願して実戦に備えてきた。

だから戦うことを恐れてはいない。

でも先が見えないことは何より不安だし、なにより言葉では言い表せない何かを感じ取っていた。


「では以上だ。諸君らの健闘を期待する。」


 皆が席を立ち始める中、アレンは考えるような表情で遅れて席を立つ。


「相変わらず、メンタル弱いな、お前。いちいち真剣に考え過ぎなんだよ。」


「確かに今考えても始まらないよな。行こうか。」


 二人は部屋を出る。


 午後、各部隊が移動を開始しており、アレンの小隊も飛行場に出るとお迎えのUH-1Yが着陸する。


「いけいけ。」


隊員が次々ヘリに乗り込む。

隣では陸上自衛隊の隊員もUH-1改に乗り込んでいる。

離陸すると各所でサイレンが鳴り始める。

離陸して高度を上げた後、上空からは沖縄市民が大きく動きまわる様子が見て取れた。

市民には寝耳に水だろうと考える。

そして海上の強襲揚陸艦へ飛んでいく。


「強襲揚陸艦まで7分。」


パイロットが応える。


するとアレンが喋る。


「持ち物ちゃんと持ったな?」


「ええハンスは忘れないよう持ち込みました。」


「もちろんです。もうヘマしません隊長。」


「ははは。」


ハンスが返事すると皆笑った。

緊張が少しほぐれる。


だがそれもつかの間だった。




突然あたりが眩しい光りに包まれ視界が無くなる。

何が起きたのかわからなかった。


「なんだこれは?核の閃光か?」


「わかりません!」


「点呼!」


「メイデー、メイデー、こちらアルファ3、突然視界が光りに包まれ周囲を確認できない。計器には異常なし。」


「ザーーーー」


「HQどうぞ?」


「ザーーーー」


パイロットがしきりに無線で怒鳴っているが反応が無いようだ。

一方の隊員たちは騒いでいた。

こんな状況では当然といえば当然だ。


 アレンは即座に声をあげる。


「落ち着け!視界はこうなったがまだ何も起きてない。」


「了、了解」


実際、何も起きてなかった。

皆が落ち着くと、手のうちようがないことが皆もだんだんわかってくる。

だがこの異様な光景は長く続かなかった。

そして光が収まるとUH-1Yは少し姿勢を崩したものの海上をホバリングしていた。


「状況報告。」


「異常なし。」


「異常なし。」


「パイロット、大丈夫ですか?」


「ああ、問題ない。通信が回復した。編隊を維持しているし、強襲揚陸艦も見える。」


アレンはその言葉にホッとする。

だがこの時、重大な出来事が起きたことには直ぐには気付かなかった。



<<アメリカ海軍ワスプ級強襲揚陸艦ダッソー>>


事件から10分後


閃光に包まれた出来事から抜け出したUH-1Yの編隊は強襲揚陸艦に続々と着陸した。

乗員が続々と降りる中にイレギュラーから抜け出して安堵するアレンの姿があった。


あれは何だったんだ?

アレンが内心考えてると他の機体に搭乗していた副官のグレッグ軍曹が声をかける。


「少尉、無事でしたか。」


「こっちは問題ないよ。そっちは?」


「こちらも問題ありません。ただ、」


「ただ?」


「ただ、艦隊の連中は右往左往しているようです。」


周りを見ると艦艇要員がさっきまで搭乗していた輸送ヘリを急いで収納し、対潜哨戒ヘリとオスプレイを発艦させようとしている。


「詳しくはわかりませんが孤立したがどうと言っていました。」


なおさらわからない。

そこでまわりを更に見渡す。

強襲揚陸艦が所属している艦隊のワスプ級やいずも型からも続々とヘリが発艦を始めていた。

自艦の隣を並走していたタイコンデロガ級とあさぎり型の二隻も回頭して沖縄があると思われる方角へ進路をとり始めた。


まだ状況はわからないがただ事ではないことはわかる。

更に周囲を見渡すとしきりに太陽を見上げる海軍兵士の姿が見える。

かなり騒いでいるが、何がそんなにおかしいのかいまいちわからなかった。

そこで自分も太陽を見上げる。


ここで始めて身の回りで起きた異変に気づき始める。

太陽だと思っていた光源は太陽より明らかに大きく、ほんのわずかに黄ばんだ色をしているように見える。

眩しくてよく見えないが、少なくとも太陽と言うには違和感を覚えるほど差異を感じる。


「なあ、軍曹。あれ、太陽に見えるか?」


アレンが太陽を指すとえって顔をしながら軍曹も見上げる


「...そう言われれば、いや、全然違いますね。」


「まさかね。」


SF映画さながらの状況に陥ったことに困惑を隠せない。

そして正確な状況が未だにわからず、どうしようもない。

今は海軍にすべてをゆだねるしかないことがもどかしかった。

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