ファーストコンタクト1


<<イギリス空軍トーネードGR.4戦闘攻撃機>>


少々雲の多い空を1機の航空機が周囲を警戒しながら飛行を続けていた。

この機はイギリスの空軍所属機のトーネードGR.4戦闘攻撃機だ。

第三次世界大戦開戦が唐突に訪れ、そして突然世界がまばゆい光に包まれ大混乱に陥ったことから状況を確認するため偵察で出撃した戦闘機だった


「管制へ、こちらダール3。聞こえるか?現在、西南西向けて飛行中も大陸が一切見えない。ドーバー海峡そのものがなくなっている。しかもグレートブリテンの地形も海岸線も全く異なっている。いったい何がどうなっているんだ?」


「こちら管制、そのままの進路と高度を維持し引き続き探索を続行せよ。」


「了解。はぁ」


「中尉、どう思います?」


「さあな、もしかしたらここは地球じゃないのかもな。だが開戦と同時に発射された核ミサイルは着弾しなかった。よくよく考えれば悪いことばかりが起きているわけじゃない。もう少し楽観的に行こう」


「それもですが、やはり心配でしょうがないです。正直、怖いのと好奇心でよくわからない心境です。しかも無線で得体のしれない通信が縦横無尽飛び交っているのが確認されていますし、何が出てきてもおかしくないですよ。」


「まあ、ここで怖がるのは立派なジェントルマンとは言えないかもしれないが、全くの未知に対応するんだ。この際は恐怖心はいいことだ。これから見るものを生きて帰って上に報告することができれば今回は上出来さ。それにもしかしたらなにいいものが拝めるかもしれないぞ」


「とりあえず最後まで気を引き締めようか。」


中尉の言葉に勇気づけられた兵装管制官は表情を和らげる。

ここでトーネードレーダーに反応が現れた。


「レーダーコンタクト。方位1100、俯角4度、距離20マイル、飛行物体です。」


その頃、トーネードから30km離れたところを2機のレシプロ戦闘機攻撃機が高度3000フィート、速度200ノットで飛行していた。



<<ミャウシア連邦海軍航空隊第332飛行隊所属クワァイル小隊1番機>>


地球ではないまた別の世界の国、ミャウシアの軍隊の双発機で、3人乗り、機首に20mm機関砲、背に連装13mm機関砲を載せた非常にインパクトのある重戦闘機。

光りに導かれるように見知らぬ世界に連れてこられたフニャンの搭乗する攻撃機だ。


機内では皆周りの空を見渡して警戒を続けていた。


「陸地が全く見えません、ヤバイです」


ウーはそう言ってどんどんテンションが下がっていく。

内心、陸地がないんじゃないかと焦り始めていた。

通信手も交信が再開できず不安な様子だった。

けれど隊長であるフニャンは動揺を一切見せずに空を見続ける。


そいて隊長であるフニャンの顔が険しくなる。


「3時方向上方に未確認機、1機」


隊長の言葉に2人とも直ぐに臨戦態勢に入る。

1番機はバンクし2番機に警戒するよう伝える。

そして高度を徐々に上げ始めた。


 

<<トーネード戦闘攻撃機 ダール3>>


「目標、上昇をはじめました。」


「こちらダール3、目標はこちらに気づいたようだ。指示お仰ぐ。」


「こちら管制、同高度、同速度で並走せよ。ただし、目標が距離を一気に詰めるようであれば直ちに離脱せよ。」


「了解。」


搭乗員たちに緊張が走る。

目標の姿を捉えていた二人は第2時世界大戦の双発機のような機体の姿に既に驚き終わっているが、問題は攻撃してこないかだ。

予想される性能から逃げ切る自信はあるが、どこまで距離を詰めるかが重要になる。

一応銃座の機銃の推定射程外までと決めた。

そして重戦闘機とトーネードは同高度、同速度になる。


 

<<クワァイル小隊1番機>>


「距離800に入りました。」


「フニャン隊長、あれ戦闘機にしてはデカくないですか?というかプロペラがない...。」


「機銃は向けないで」


ただ、さっきまで距離を詰めていたのに更に距離を詰めようとすると今度は離れていく。

どうやら機関砲の有効射程には入るつもりがないらしい。

そしてプロペラを持たない航空機が好戦的ではないことを確認したフニャンは機体をバンクさせ始める。


フニャンはこの航空機が不時着していた旅客機と技術的に似ていることを察していた。

両者とも強い後退角を持つ後退翼機だった。

少なくとも自分たちのいた世界では試作機や研究機以外そんなものは存在しない。

なら共通点の多い彼らの仲間と見たほうが自然だった。


「なんですかアレ?」


「敵意がないことを示したいのかもな。」


トーネードのパイロット達はそう言って少し悩んだ様子を見せた後、こちらもバンクしてみせることにした。

それを見たレシプロ戦闘機は再度バンクしゆっくりと変針を始めた。

いかにも付いてこいと言わんばかりの仕草だった。


「さ、誘っているのか?」


「....付いていってみるか」


「つ、付いていくんですか?」


「相手の脅威度は小さい。燃料にも余裕がある、それくらいはいいだろう」


「こちらダール3....」


パイロットは上に追尾の許可を求める。

そして追認されフニャンたちに付いていくことにした。


フニャンはその間、迎撃に現れたこの戦闘機の技術的特徴を観察する。

恐らくターボジェットと呼ばれる部類のエンジンを積んだ機体だということにピンときていた。

だがミャウシアではまだ試作機を作っている程度で実用機は一切存在しない未来の航空機だ。

しかも機密過ぎて自分が知っているのは大きな吸気口とジェットノズルが付いていることくらいだった。


だがこれを見てジェット機というものの潜在能力を少し把握できそうだった。

後退翼ということはこの機体は相当足が速いと思う。

しかもこの航空機の主翼は付け根に翼をスライドさせる空間が見て取れた。

つまりこの航空機は可変翼機ということだ。


そして航空機の巨大さにも驚く。

大きな機関砲にレーダーも十分に詰めそうなレドーム、よくわからないがハードポイントにロケットのようなものも付いていた。

恐らく空虚重量自体10トンはゆうに超える大きさがある。

実際14トンあり7トン程度のフニャンの機体より断然大きかった。


フニャンはこの航空機が自分たちより遥かに進んだ技術で作られたものだと推察すがその攻撃力は自分の想像力では予想するのが難しく結論は出ない。

だが少なくとも喧嘩を売るべき相手ではないように思えた。


「隊長、そろそろ不時着機が視界に入る頃合いだと思います。距離6のはずです」


フニャンは観測係も兼ねているウーの言葉に反応して周りをよく見渡す。

すると左舷前方の雲の合間に不時着機が見え始めた。

目印がほぼない、太陽も当てにできない空で概ね正確に座標を把握することができていたウーに少しだけフニャンは少し感心する。


「目標を確認。少し降下する」


2機が降下を始め、トーネードも付いて行くように降下する。

そしてトーネードのパイロットたちは不時着した旅客機を見て慌てる。


「管制、聞こえますか?民間機が海面に不時着しています。基地から南西におよそ610マイルの地点です」


「わかりました。救助を要請します。現場で確認を続けてください」


「了解」


「この2機は俺達にこれを知らせたかったのか」


トーネードのパイロットはこの2機を好意的に見る。


その頃、旅客機の胴体や翼に乗っていた乗客たちからほんの少しだけ歓声が上がっていた。

航空機が戻ってきてくれたので確実に自分たちの位置を認識してくれたことに安心が生まれたことによるものだ。

それを見ていたナナオウギも安堵の表情を浮かべ所属不明のレシプロ機がイギリス軍籍マークを付けたトーネード戦闘攻撃機を連れてきたことに感謝していた。


そしてナナオウギはレシプロ機に自然と敬礼してしまうのだった。

ナナオウギは敬礼する中で視線のようなものを感じ取る。

気のせいかとも思いつつもレシプロ機のパイロットかなと少しおかしく感じてクスッとした。


けれどそれは気のせいではなく、この時レシプロ機のパイロットであるフニャンが猫のような鋭い瞳をナナオウギに向けていた。

信号灯を持って合図していたナナオウギにやることはやったよと言うように見つめる。

この時お互いに目線が合っていた。


それは2人の最初の出会いでもあった。


そしてフニャンは任務を終えたように操縦桿を横に倒して空域を離脱し始めた。

ついさっき通信が回復し電信の方角から本国の位置を割り出し、そちらへ進路を取る。

2機は遠くの彼方へと消えていった。


こうしてミャウシアと地球のファーストコンタクトが終わった。

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