ファーストコンタクト3

<<見知らぬ海上>>


事件から40分後


2機のオスプレイが海上を飛行していた。


「ウェイズ1-1、こちらタッグ2-1。沖縄を確認できない。繰り返す、沖縄を確認できない。レーダーに一切反応が無し、どこにも陸地がない。」


「タッグ2-1、こちらウェイズ1-1。間違いないのか?」


「間違いない。艦隊は沖縄からそんなに距離がないはずだ。間違えるはずがない。」


「タッグ2-1、引き続き捜索できるか?」


「ダメだ、これ以上捜索した場合、自位置を見失う可能性がある。」


「了解。タッグ2-1、2-2、帰還せよ。」


「了解。」



<<ワスプ級強襲揚陸艦ダッソー>>


「司令。やはり索敵機は沖縄を発見できませんでした。海上自衛隊の索敵機は無線のやり取りで判明している艦隊を確認しました。が、予定の作戦域に展開しているはずの一部艦隊、艦艇を確認出来ていなようです。」


「まるでSF映画だな。准将、各艦に警戒を続けるよう伝えてくれ。海上自衛隊の艦艇にも警戒と確認を続けて要請してくれ。」


「わかりました。」


「艦長、まだ通信は回復しないのか?」


「はい、未だ司令部からの応答はありません。今もしきりに呼び出しています。」


通信兵が報告する。


「カールビンソンから報告が入りました。ここから1200km先に陸地を発見したそうです。また、各部隊との通信が続々と回復しており、発見した陸地から我軍と自衛隊からの通信、哨戒機のコンタクトも確認されたようです。」


「つまり、日本列島ということか?」


「いえ、それが陸地は日本とは全く異なるようです。ですが陸地には日本の住民及び施設、自衛隊や我軍がいることは確認されたようです。」


「何だそれは。」


他の通信兵も報告する。


「短波通信が入りました。本国からです。」


「内容は?」


「それが、状況は先程の報告と同様のようで、大混乱に陥っているようです。」


「一体何が起きたというんだ。」


想像力を振り絞ってもいまいちわからない状況。

だがこれが人民解放軍の攻撃によるものではないことはわかっていたし、犠牲者出ているわけでもないので、悪い状態だが最悪というわけではないので、まずは落ち着いて現状把握に勤め続けるしかないと任務部隊司令官達は思った。


だが、この混乱に割って入るように報告が入る。


「沖縄の捜索に出た巡洋艦セント・ジョーンズから入電。セント・ジョーンズに同行したフリゲート艦アオギリの哨戒ヘリが7隻の帆船の航行を確認したそうです。」


「帆船だと?」


「はい。しかも6隻が1隻を砲撃しながら追いかけているようで、対応の指示を求めています。」


「詳細を確認させろ。」


「こちらダッソー、セント・ジョーンズ聞こえるか、先ほどの・・・」


「全く、一体何なんだこの世界は。」


世界が大混乱に陥る中、1隻の帆船が6隻の帆船から攻撃を受けながら必死に逃げ続けていた。

それらの船は進貢船のような姿をし、その乗組員達は皆狐の様な耳と尻尾を生やしていた。


<<逃亡船>>


「ダメだ、このままでは追いつかれてしまう。」


 逃げる帆船のリーダーは悲壮を漏らしてしまう。


 逃走する為に大砲や備品を捨て、乗船人数を絞って速度を稼いでいたが、港から出る際に砲台からの攻撃でセイルを損傷してしまい、思うような速度が出ずに追撃を許してしまっていた。

先の眩い光で敵が動揺した隙に引き離すことができたが、それも体制を立て直した敵にまた距離を詰められてしまうのだった。

そして敵の大砲の射程に入ってしまい、いよいよ逃走劇の幕引きは時間の問題になりつつある。

だがそれでも諦める訳にはいかなかった。


「皇女殿下、船首のお部屋へ、船尾は危険です。」


「わかりました。では負傷者も船首へ運びます。そこの人、そちらのけが人を船首へ。私はこちらのけが人を運びます。」


「殿下、お手を煩わせることなど・・・」


「私は望んで手当てしているのです。それに私を遊ばせておく余裕が無いことも私が何をすべきかとあいこともわかっています。無用な気遣いは結構です。コウ。」


「・・・。では謹んでお願い致します。」


「わかりました。」


皇女は船員と共に負傷者を運ぶ。


 頼もしい皇女の姿は兵の士気に貢献していた。

誰も弱音を吐かないし、吐けなかった。


 しかし指揮官である自分は万策尽きて妙案もない状況に困っていた。

何かないか、何か。

このままでは先帝の意思と港で殿を務め散った皇太子殿下の努力が無駄になってしまう。

そして集中砲火を浴びるだろう距離まで詰められてしまった。


「神よ、どうか我々をお救いください。」


 そんな時だった。


「何だあれは!」


 見たことのない飛行物体が轟音をたてながら真上を通過していく。

その姿に全員が慄く。

敵は弓矢やマスケット銃を放っている様子も見える。

しかも周りを見渡すと左舷前方に2隻の船の姿が見える。

敵なのか味方なのか、正体不明の存在に動揺が広がる。


 チャンスであることに気づき直ぐに指示を出す。

船員は操船に戻り敵の追撃が緩んだ隙に引き離しにかかる。

敵もそれに気づいたが、少し引き離なすことに成功する。


「隊長、あれは何なんですか?」


「わからない。だが今は考えてもしょうがないし、風向きからしても前方の船は避けようがない。とにかく逃げ続けるだけだ。」


 先程の飛行物体は上空を旋回し続け、前方の船は更に距離を詰めてくる。

そしてそれらの船がとてつもなく大きな船であることに気づいた。

全長は40丈を有に超える長さがあり、帆が無かった。


「なんて大きさだ、しかも帆がない。どうやって動いているんだ?」


「わかりません。そもそもあれは船なんですか?」


「形状から言えば船のはずだが。」


 その船の正体についてあれこれ考えている最中のことだった。


 本船と敵船の間に3つの巨大な水柱が上がる。

何が起きたのかわからなかった。


 そして5秒ほど経ってから遠方から3回の爆音が鳴り響いててくる。

そこで何が起きたのかわかった。

巨大船が発砲したのだ。


「まさかあの距離から発砲したのか?敵か?」


「いえ、おそらく敵に追うなと威嚇したのでは?我々と敵の間に正確に着弾させています。」


「であれば、あれは味方か?」


「少なくとも我々に敵意は無いはず。」



<<タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦 セント・ジョーンズ>>


「指定ポイントに全弾命中。」


「目標の反応を警戒せよ。応答はあるか?」


「いえ、目標はVHF、高周波ともに一切応答しません。」


「後方の船団が本艦へ発砲しました。」


「レーダーで確認、弾速から本艦には届かないと思われます。」


「威嚇はしたがまさかここまで予想通りの反応を示すとは。アオギリからの返信は?」


「返信きました。やはり攻撃はできないとのことです。」


「だろうな、今の彼らにこれは判断できまい。」


 そして船団からの攻撃は1km手前に次々と着弾する。


「これより攻撃を行う。目標、後方の船団の最先頭の船。ファイア。」


「一番主砲、コメンスファイア。」


「ファイア。」


ドオォォォォン


 セント・ジョーンズの5インチ砲が発砲する。


 船団の先頭船が大きな音を立て大量の破片と爆煙を撒き散らす。

そして勢い良く火の手が上がる。

弾薬に引火したのだ。

生き残った乗組員達は続々と海に飛び込んでいくと、時間が立たないうちに船はバランスを崩していき、船体も部分的裂け始めバラバラになっていく。



<<船団のリーダー船>>


「な、なんて威力だ!一撃でジャーシャンが吹っ飛んだぞ!」


「一体なんなんだあの船は?砲が届かない上にあの火力と精度、とても相手にならない。」


「頭、逃げましょう。とても敵う相手じゃないですぜ。」


「黙れ、ここで賊を討たねば俺たちの命はないんだぞ。とにかくあの逃亡船は必ず沈めろ、ヤツの気が変わらんうちに!」


 船団の司令官はこのイレギュラーのなか何をやるべきことは理解していた。

巨大船の出現と実力は全くの想定外であり、本来なら逃げるべきだ。

だが、ここで引き返せば賊を取り逃がした責任で極刑間違い無しでもある。

なら逃亡船を撃沈するしない。

しかし、巨大船の最初の発砲は逃亡船を追うなという威嚇、次は攻撃に対する見せしめの反撃なのは明白だった。

次は殲滅してくるだろう。

いや、そもそも逃げても逃がす気すらないかもしれない。

であれば尚更逃亡船を道連れにするくらいしか道はないとも思えた。

やるしかない。


 その時逃亡船の残りのマストが折れ速力を失う。

チャンスとばかりに指示をだす。


「今だ、逃亡船を沈めてしまえ!」


 船団が逃亡船に集中放火を浴びせまくる。



<<逃亡船>>


「まずい、海へ飛び込め!」


 コウの指示と同時に船体に多数の砲弾が直撃し木片が飛び交う。

船員は次々に海へ飛び込んでいく。

コウはすぐ飛び込まず、船尾の部屋に走る。

治療室として使われた船首の部屋に入ると破片が飛び交い負傷者は瓦礫に埋もれていた。

皇女も同様である。


「殿下!」


 瓦礫から顔を出しているが気絶しているのか返事がない。

破片が飛び交う中、コウは走って皇女を瓦礫から出すと担いで几帳目掛けて走る。

できれば他も救いたいが今は殿下しか抱えられない。

既に破片で血だらけになり、力も出なかった。

そして几帳うをぶち破ると皇女を抱えたまま海へ飛び込んだ。


 逃亡船は船体が崩れ、バラバラに崩壊していく。


 海面から顔を出したコウは直ぐに浮かんでいた木片を掴み皇女のからだをその上に乗せる。

それから船団からの銃撃や弓矢が気になり周囲を見渡す。

すると先ほどまでこちらを攻撃していた船団と思われる物体は激しい炎と煙を上げ、バラバラになっていた。

おそらく巨大船が撃沈したのだろう。

やはりそれだけの力があの船にはあったようだ。

とりあえず救助してもらおうと手を振ってみるのだった。



<<タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦 セント・ジョーンズ>>


「目標すべて撃沈しました。」


「攻撃終了せよ。」


「一番主砲、シースファイヤ。」


「ストップファイリング。」


「艦長、遭難者を多数確認しました。」


「救助のためゾディアックを出せ。アオギリにも救助要請をだすんだ。それと司令部に報告を。」


「了解。」


「まさかこうなってしまうとは、やはり強硬手段に出るべきだったか。」


「いえ、判断の手順は正しかったはずです。今は一人でも多く助け出しましょう。」


「そうだな。」


「アオギリから返信、指示が下りず、集団的自衛権の問題や高度に政治的問題のため本艦の一存では救助は行えないとのことです。」


「はぁ、彼らの専守防衛とは救えるものも救えない難儀なものだな。」


 セント・ジョーンズから発進したボートが遭難者を救助して回った。

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