総括:裏テーマの存在
本日は、「明日の黒板」の裏テーマについて語りたいと思います。
■裏テーマとは何か
私はこの企画を実施するにあたって、主題以外にも知りたい、データを取りたいと思っていた部分がありました。私はこの自主企画を運営する中で、そういった視点でも皆様の作品を拝読させて頂いておりました。
■なぜ明記しなかったのか
作品の面白さに直結する部分では無いと思ったからです。裏テーマの存在を明かしたり、ルールとして明記すると、主題である「面白い作品を作れるのか」というテーマから外れてしまう可能性があったからです。
またそれを記すことで、私が皆様を試している、というふうにとってほしくなかったからでもあります。
では内容について語っていきたいと思います。
■裏テーマ① 「何度も訪れる同じ場所」
多くの方がお気づきになったかも知れませんが、このあらすじでは合計三回、教室に足を運ばなくてはならないというルールがあります。
「なんで何回もいくねん」と思った人はかなりいらっしゃったのではないかと思います。
しかしこれは、「作品を作り上げていく」という仮定において、多くの皆様がぶつかるだろう、あるいは、意識せずに乗り越えている、良くある事象です。
例えば恋愛生活もの。二人の住む場所は一体何回訪れるでしょう。仕事先についても同様です。
この場合、「仕事だから、住んでるんだから毎日行くのが当たり前じゃん」という説明不要の理由がついてくる訳ですが、
例えばこれが異世界ファンタジーだったり、現代ドラマだったりミステリーだとすると、「何度も同じ場所に行くには、理由か、なんらかの変化がないと不自然」なんて場面が結構ある訳です。
例えば「転送ゲートが同じ場所にある」とか、「気になる友人のお店を選んでしまう」とか、「何らかの手がかりが残されていそう」とか。
でもそういった理由で、「なんか弱いんだよな、理由が」と考えたことはありませんか?
今回の場合もまさにそうで、三回行くための理由を、(上の例のように大方記されているが)味付けして作り上げなければならないという設定があった訳です。
これをいかに不自然なく取り上げるか。どんなアイディアがあるのか。
これが一番見たかった部分だったのです。
■裏テーマ② 「何度も訪れるが時間軸の違う場所」
上に続く問題ですが、今回の作品では、教室に訪れる時間軸がそれぞれ異なっています。ただの教室ですが、三回とも時間が違うだけでなく、訪れる夏男の心理状況が大分異なっています。その中で、同じ教室をどう情景描写するか。その情景描写がいかに作品に雰囲気を与え、キャラクターの心情を反映するか。その際に、どんな美しい表現があるのか。
それが裏テーマとして知りたいところでありました。
■裏テーマ③ 「書く動作を、どう描くか」
書く、という動作は実にシンプルな単語で表現できてしまいます。特に日本語では、文字には「書く」が、絵には「
今回、夏男くんには失恋を味わってもらい、その中で黒板に向かってもらいました。
その時の「書く・描く」という動作は、普段とどう異なっていたのでしょうか。
夜という静寂の中、黒板に向かっている。それは自分の心理と向き合っているのに近しいのではないでしょうか。
それをいかに、読者に心情をリンクさせ、五感を活かして書くのか、どんな手法があるのかを探っていました。
■裏テーマ④ 「飛行機は何を表しているか」
物語の最後に飛行機が飛んでいくというのは、ある意味で定番の演出です。
そういったアイテムをどう表現するのか、それは視覚的だったり聴覚的だったりいろいろあるとは思うのですが、作者様がアレンジした作風に対して、飛行機という描写がどのようなインパクトを残すのかが、気になりました。
空を飛ぶものの中でも、今回はあえて鳥ではなくて飛行機にすることで、感情移入させにくくしていました。
■裏テーマ⑤ 「夏男は春子を好きだが、春子は夏男を意識している」
夏男は春子をすきなのですが、春子は夏男を好きとは名言していません。この設定に対して、作者様がどのように捻りを入れてくるのか、また、全体を通してどれくらいの人数の方がそういった路線に挑戦されるのかを知りたかったのです。
またそういった、春子が夏男を好きとは公言していない設定にした際に、どれくらい納得感あるエピソードになるのか、という部分が知りたかったのがあります。
結果としては多くの方に挑戦していただき、どれもがとても良い物語になっていました。
■裏テーマ⑥ 「卒業式に告白する意味」
中学生の卒業式と違って、高校の卒業はその後のルートがかなり別れてしまい、実質的な別れになってしまうことが多くあります。その中で、卒業式に告白する。この意味を、どう捉えて作品にしたいと思うかがポイントだと思います。
夏男にいくじが無かったのか、春子がそうさせなかったのか、この設定でいろいろな関係がでてくると思ったので(それは大学生活に及ぶ展開になるかもしれないなどの将来の展望を期待して)、こういう設定にしました。
さて、これだけのポイントが、私の中で知りたかった裏テーマでした。
このポイントを持って皆様の作品を見ると、実に多くの技術とアイディアを発見することができました。
私だけってなんかずるいですよね。ごめんなさい。
でも本当、これを最初に公表するのはそもそも「作品を面白くする上でこのテーマは必要なのか」が判断できなかったこと、そして皆様の自由な作家活動の妨げになると思ったのです。
もしよろしければ、この主眼をもって、他の作者様の作品をご覧になってみて下さい。なかなか面白い発見があると思いますよ。
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