エピローグ
二人の結婚
1
治療を終えてからの病院は、昼間の騒がしさに比べ、信じられないほどの静けさに覆われている。
廊下の外にいた老人たちは、皆帰っていった。
治療を終えたリーンは疲れてしまったのか、廊下のソファでスヤスヤ眠っている。
コトネとアズサとマナは、ローグが目覚めることを願い、屋上で流れ星を見つけては願う事を繰り返している。
キョーコは、サンタモニカと共に、自販機売り場で水を飲みながら、静かにローグの目覚めを待っている。
そしてシノは……。
「スー……スー……」
ローグの胸に左手を、そしてその手の上に顔を乗せ、ローグの顔を見るようにスヤスヤと眠っていた。
それはローグの温かみを感じ取ろうとしているように……。
…………。
「……ん? んん!?」
ローグが目を覚ますと、胸の上でシノが眠っていた。
(……どういう事だ!?)
状況が理解できず、周りを見渡すローグ、そして。
(俺はあの後、入院していたのか……)
ローグは自分の今の状況がどういうものか、だいたい把握した。
だが、それは同時に素敵な寝顔のシノをどうするか?そんな難問を出されることになった。
(……とりあえず、ゆっくり起きて、シノを枕で寝かせるか)
そう思ったローグは上半身をゆっくり起こそうとする。
だが、眠り続けていたためか、身体の力加減が上手くいかず、一気に体を起こしてしまい。
「ん……?」
結果、ズルっと胸板からシノの頭が滑り落ちてしまう、しかも。
「おや、起きて早々イヤらしい事をしますね、そんなに溜まっているのですか~?」
「……不本意だが、すまん」
その頭がズボンの股上に滑り落ちてしまった事で、シノのその様な言葉を受けるハメになってしまった。
だが、そんなシノは嬉しそうな顔を浮かべている。
そして、椅子に座りなおしたシノは、口に出す。
長い間抑えていた自分の気持ちを。
「……初めて出会った時は単なる一目ぼれでしたよ。 ですがあなたと触れ合ううちに、それは一目ぼれでなくなりました」
「そうか……」
「そのうち、あなたと楽しくいる為に、自分の性格を偽ってあなたに合わせて……、でも楽しかったですよ、あんな感じも……」
「俺も楽しかった……」
その言葉に真剣な顔を浮かべるローグ。
そんなローグの右手を、シノは両手を使って持ち上げると、その右手を自身の胸に当て、ローグに甘い声で思いを告げる。
「きっとあなたに出会った時から、私の心は盗まれていたのですね……。 ホント、盗賊の上位職であるローグってあだ名を持つだけはありますね……」
「俺も知らない間に盗んでいたが、それが俺の一番の宝だ……」
「……ですが、盗まれてばかりでいる私ではありませんよ。 今度は私があなたのハートを盗みます」
「ほう? なら盗んでみたらどうだ?」
「なら遠慮なく、頂きますよ、立花君……」
そしてシノは、ローグの頭を両手で抱きしめ、自身の唇を使い、ローグの唇からハートを盗もうとし、ローグもシノの背中を優しく抱きしめ、更にハートを盗もうとする。
その犯行は3分程、だがそれは二人にとって何時間にも感じられる重みある時間であった。
その後、二人は互いに決意する。
『『結婚しよう』』
と。
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