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「何ですって!? アロエが集まらない!?」
キョーコは病室に戻る途中、後藤さんから電話がかかったので、一度外に出て掛けなおしたキョーコは、つい大声をあげてしまった。
そんなキョーコに、電話の向こうの後藤は説明を始める。
『ええ、申し訳ないのですが、今の時間、つまり午後9時に営業している業者が殆ど無くてですね……、空いていてもアロエを取り扱ってなかったものでして……』
「それなら遠くでもいいから探して頂戴! お金はいくらかかっても良いから! なるべく早くお願い!」
『分かりました、心当たりを当たってみようと思います』
「ええ、お願いね! あと、いつもありがとう……、後藤には感謝しているわ……」
『勿体ないお言葉です。 ではこれにて……」
電話を切ったはいいものの、キョーコの気持ちはあまり良いものではなかった。
(自分が出来る事と思って行動したものの、予想に反してダメだった)
そんな思いが、病室へ戻る彼女の足取りを重くした。
…………。
「ただいま~……ってみんなで外見てどうしたのよ?」
「あ、キョーコさん。 アレはキョーコさんの会社の車っスか?」
「へ? うーん……、でもうちの車は全部白の軽自動車で統一されているハズなんだけど……」
キョーコがトボトボと重い足取りで病室に戻った頃、病院の前には軽トラックや軽自動車など様々な車が集まっていた。
だがそれはキョーコの会社の車ではない。
(一体なんだろう?)
皆がそろって不思議そうに眺めていたその時。
『おーい、リーンちゃん! ダメ刑事からの連絡網でね、アロエ必要だって聞いたからさ、いてもたってもいられなくて、やってきちゃったよ!』
『リーンちゃん! アロエが必要なんでしょ? うちで栽培しているアロエ、持ってきたわよ~』
車から老人たちが下りてきて、上からのぞき込むリーンに向けて声を上げ、そして手を振る。
その姿を見たリーンは。
「あ、笹井のおじいさん! それに飯島のおばちゃん! それにミブさんにケンさんも! 待ってて、今行くから!」
そう叫ぶと、病室を後にし、急いで老人たちの所へ向かい、アズサとコトネの二人も。
「リーンさん、オイラも手伝うっスよ!」
「待てリーン、私も手伝うぞ!」
そう言ってリーンの後を追いかけて行った。
そんなリーン達の様子を見ていたキョーコは。
(理屈ばっかり言っててはダメね。
そう考えを改めさせられた。
…………。
リーン達は老人たちと共に、ビニール袋に入った大量のアロエを持って、病室へと戻ってきた。
そんな室内では、リーンやシノに対し、老人たちが。
「リーンちゃん、頑張ってこの人を助けるんじゃよ。 ワシ等は邪魔が入らぬよう、年寄りの壁を作っておこう」
「お嬢ちゃん! 好きな男がどうなるか分かんないのだから、助かったら自分の気持ちをぶつけてあげなさいよ。 おばちゃん、応援しているから!」
「俺のせがれがここで医者をしていてな。 何かあればせがれに責任を取らせてやるから、安心して助けてやんな!」
「嬢ちゃん、口が悪い嫌な女って思ってたが、純粋でかわいいところもあるんじゃないか! 全く羨ましいねぇ、この男は!」
等と声援を送った後、病室の外の廊下で待機し、シノは声援を受けた恥ずかしさに耐えかねて、顔を真っ赤にさせて固まった。
そして老人たちの声援を終え、リーンとマナとシノ、それとキョーコが手配した数人の医者以外の人々が外に出終わった時、リーンの仕事は始まる。
まず、アロエを口から摂取し、身体に浸透させはじめ、その間に医者たちがローグに麻酔をする。
薬草を摂取し始めて数分後。
「あぁ、思い出すわ~癒し草独特の味……、こっちの世界にもあるとは思わなかったわ……。 あ、だいぶ体に浸透した感じがするわ!」
苦悩の表情を浮かべながらアロエを摂取していたリーンの肌の色は、緑に変化した、どうやら身体中に浸透したらしい。
そして、ここからがリーンの大切な場面になる。
右手を液体状にしたリーンは、ローグの複数の傷口から体液を侵入させて治療を開始する。
そして時々、医者の提案や状態確認などを聞きながら、治療は行われていく。
室内には、外から虫の声が聞こえ、リーン達の口から呼吸音が漏れ、緊張感が流れる。
それは誰もやった事が無い、未知の手術を行っているため、だがリーンに恐れはない。
それは、リーンを応援する仲間たちの声があるから。
だからこそリーンは、この様な状態でも、冷静に身体を扱えているのかもしれない。
…………。
役一時間後。
「……とりあえず、どうだか分からないけど、やれる事はやったつもり。 ただ私も初めてだから上手くいったか分からないけど……。 私は一度、休むわね」
「上手くいきますよ……」
治療を終えたリーンはそう言いながら部屋を出ていき、そんなリーンにシノは、優しくそう伝えた。
そして、シノはサンタモニカの胸元に手を当てると。
「ここまでみんなが頑張っているんです。 起きないと失礼ではないですか?」
ただ眠り続けるローグに、優しく微笑んだ。
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