4人は部屋の前の壁に寄りかかって、うたた寝していたサンタモニカに事情を説明し、SUVのカギを借りてローグとコトネが住むマンションへ向かう。

 その途中、時間の無駄が無いように、リーンは車の中でコトネのスマートフォンに映る、こちらの世界の薬草の画像を眺めていたのだが……。


 「気持ち悪い……」


 そのおかげでリーンは車酔いになり、窓を開けて涼しい風に当たっている。

 そんなリーンに対し、助手席に座るキョーコが真剣な顔で。


 「大丈夫、私に考えがあるわ!」


 そう言って、Tシャツに覆われた胸元から、見覚えのあるビンを取り出し。


 「テッテレテッテッテ~、スピリタス~! これを飲んで酔っ払えば、車酔いの吐き気と、酔っぱらった吐き気がぶつかり合って、吐き気が消えると言う魔法のドリンク! ついでに現実の辛さを忘れさせてくれる、魔法のドリンクでもあるのだ!」

 「「「そんな訳ない(でしょ!)(っス!)(だろう!)」」」


 高らかにあげてそう言い放つが、それは3人によって突っ込まれる。

 だが、キョーコはそれに対し、理論を交えながら反論を開始する。


 「三人とも、落ち着いて考えなさい。 数学の世界では、マイナスとマイナスをかければプラスになるのよ? なら、酒に酔っぱらった時の吐き気と、車酔いの吐き気をかければ、吐き気は消えるハズでしょ!」

 「キョーコさん、それは足し算っス! どう考えても吐き気が悪化するだけっス!」

 「そうだぞキョーコさん! それは火に油を注ぐようなものだぞ!」


 だが、そんな理論が受け入れられる訳もなく、二人から反論を受ける、そして。


 「二人の言う通りよ! そんなモノ飲んだら……う、おえ~~~……」

 「り、リーン! 大丈夫か!? 背中をさすってやるからな!」


 二人に続き反論しようとしたリーンの吐き気は限界に達し、窓から汚物を吐きだしてしまい、画像を見るどころではなくなってしまった。


 …………。


 「いいアーちゃん? アレが大人になる為の道であり、儀式でもあるの。 ちゃんと目に焼き付けておきなさい」

 「いやキョーコさん、何と言うか……。 オイラ、既にもうあの道歩んでいるっス……」

 「だ、だいぶ落ち着いたかも……、あ、やっぱまだ残ってる……おえ~~~」


 マンションに到着し、コトネが薬草に関する本を持ってくる間、キョーコとアズサは、マンション付近の下水道付近で新たな敵車酔いと戦うリーンを眺めながら世間話をしていたのだが。


 「しかしあの子、植物ばかり食べているのね? あの葉っぱはドクダミかしら?」

 「さぁ……オイラ植物に詳しくないから分かんないっス……」

 「うーん、アレは……分かんないわね~、ヒントが欲しいわ」

 「キョーコさん、別に『リーンさんが吐いた植物はなーに?クイズ』をしてる訳じゃないっスからね、だからヒントって言われても困るっス……」


 いつの間にか、クイズの様な会話を繰り広げ、アズサは真剣な顔のキョーコに呆れた顔を向けていた。

 だが、そうした何気ない会話は時間を早めるらしい。

 二人にとって、ほんの2~3分程の感覚の間にコトネが。


 「持ってきたぞ!」


 と本と薬瓶を片手に三人へ近づき。


 「棚がある部屋の電球が切れていてな、手間取った。 それとリーン、これを飲むんだ、棚にあった吐き気止めだ!」

 「あ、ありがとう……。 あ、なんか落ち着いてきたような……」


 そして、リーンに薬を渡すのであった。


 …………。


 そして四人は車へ乗りこみ、リーンは病院へ向かうその間に、スマホの明かりを頼りに、図鑑の写真を見て数分。


 「あ、コレ! そうよ、癒し草よ、コレがあったの忘れていたわ!」


 リーンは一つの植物の写真に指を指す。

 それは以前、料理にも使ったアロエと呼ばれる植物。

 そして、それを聞いたキョーコは、スマートフォンを取り出し、電話し始める。


 「もしもし、後藤? ごめんなさいね、会社を開けて……。 至急アロエを集めてくれない? ええ、そうなの……」


 それは、アロエを集める指示を出すためのものであった。

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