4
「ヒヒ……」
白い病院服を纏って眠るローグを、気味の悪い笑顔でシノは見つめていた。
その気味の悪さの原因は、ニンマリした口に、見開いた瞳から流れる涙が原因だろう。
そして。
「ヒヒヒ……、起きないのですか~? せっかく冗談を言うチャンスをあげているのに……。 ヒヒ、ウヒヒヒヒ……」
眠り続けるローグの耳元で、楽しそうな声でその様に囁く。
それは哀れとしか言いようが無い姿だった。
そんな時だった。
リーンが病室のドアを開け、スタスタ入り、シノの前に立ち、シノは笑みを浮かべた顔をリーンに向けて口を動かし初める。
「ヒヒ……、おやおや~私を笑いに来たので……」パーン……!
シノが言葉をすべて吐き出す前に、リーンのビンタがシノの頬に当たり、その痛みでシノは驚いた顔を浮かべてその場に固まる。
そんなシノに、リーンは淡々と話す。
「屋上でいじけていたら、マナに言われたわ『いつもはバカみたいに一生懸命してる癖に、何で諦めているの!?』って。 私は、マナの言う通りだと思ったわ。 だから、私は今から一生懸命ローグさんを助けるつもりよ」
「…………」
「だけどさ、私は頭が良い訳じゃないから、知恵が欲しいの。 だから、知恵を貸してって言ってるの。 ただ、それは情けない今のアンタに言っている訳じゃないわ! 性格悪くて暴力的だけど、どこか優しさがあったシノって女に言ってるの!」
「…………!」
黙ってリーンの話を聞いていたシノは、そんな話を聞いて、ハッとなった。
…………。
壊れたガラスの様な心の中に、僅かに光が差し始め、シノは心の中で立ち上がり、光差し込む割れ目を見て、静かに呟く。
(いつもそうでしたね。 いざって時になると、ウジウジして素直な気持ちを言えなくて……。 こんな時だからこそ、そんな事をしている余裕はないはずなのに……)
それに続き、シノは右手を握りしめ、自身の決意を決める。
(それも今日までです。 リーンに言われている様じゃ、私もまだまだでしょうからね……)
そして、彼女の心の世界にどんどん光が差し込み、彼女の体を覆い隠すのであった。
(ですがリーン、アナタのお陰で目が覚めましたよ、感謝します……)
…………。
「ふふ……」
「シノ!」
シノが微笑む。
それは先ほどまでの壊れた笑顔とは違い、心が晴れたような笑み。
そんなシノは、リーンに向けてゆっくり歩き、そして右手を差し出す。
(シノ……ついに私を認めて……)
今まで、罵倒を浴びせられたり、スタンガンで攻撃されたりと、少なくとも良い扱いを受けてこなかった。
だが最近は、ビンタをされたりしているが、アズサの論文への協力をしてくれたりと、以前に比べて、微妙に扱いも優しくなっているような雰囲気だ。
そして今日、シノは右手を差し出した。
そんな積み重ねがあるからこそ、この動作はリーンに(やっと仲間として認めてくれたんだ!)と言う思いを抱かせる感動を与えているのだ。
そして、リーンが右手を差し出し握手をしようとした瞬間。
「ふぎゃ!」
シノが差し出していた手を使ってリーンに対し、パーンと鳴り響く、仕返しのビンタをした。
「何すんのよ! 痛いじゃない!」
そう叫ぶリーンに対し、シノはニコニコしながら。
「やられたらやり返す、当然でしょう? リーンはバカですか~」
「何ですって!」
そう楽し気に答えるのであった。
それは、いつもの店内の風景を思い起こさせる、明るく楽し気な表情であった。
そんな笑顔の裏でシノは。
(今こそ、彼を守る為に頑張る時ですよね……。 だから先生に、色々教わったのだから……)
昔の言葉を思い出し、ローグを助ける決意を固めるのであった。
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