「ヒヒ……」


 白い病院服を纏って眠るローグを、気味の悪い笑顔でシノは見つめていた。

 その気味の悪さの原因は、ニンマリした口に、見開いた瞳から流れる涙が原因だろう。

 そして。


 「ヒヒヒ……、起きないのですか~? せっかく冗談を言うチャンスをあげているのに……。 ヒヒ、ウヒヒヒヒ……」


 眠り続けるローグの耳元で、楽しそうな声でその様に囁く。

 それは哀れとしか言いようが無い姿だった。

 そんな時だった。

 リーンが病室のドアを開け、スタスタ入り、シノの前に立ち、シノは笑みを浮かべた顔をリーンに向けて口を動かし初める。


 「ヒヒ……、おやおや~私を笑いに来たので……」パーン……!


 シノが言葉をすべて吐き出す前に、リーンのビンタがシノの頬に当たり、その痛みでシノは驚いた顔を浮かべてその場に固まる。

 そんなシノに、リーンは淡々と話す。


 「屋上でいじけていたら、マナに言われたわ『いつもはバカみたいに一生懸命してる癖に、何で諦めているの!?』って。 私は、マナの言う通りだと思ったわ。 だから、私は今から一生懸命ローグさんを助けるつもりよ」

 「…………」

 「だけどさ、私は頭が良い訳じゃないから、知恵が欲しいの。 だから、知恵を貸してって言ってるの。 ただ、それは情けない今のアンタに言っている訳じゃないわ! 性格悪くて暴力的だけど、どこか優しさがあったシノって女に言ってるの!」

 「…………!」


 黙ってリーンの話を聞いていたシノは、そんな話を聞いて、ハッとなった。


 …………。


 壊れたガラスの様な心の中に、僅かに光が差し始め、シノは心の中で立ち上がり、光差し込む割れ目を見て、静かに呟く。


 (いつもそうでしたね。 いざって時になると、ウジウジして素直な気持ちを言えなくて……。 こんな時だからこそ、そんな事をしている余裕はないはずなのに……)


 それに続き、シノは右手を握りしめ、自身の決意を決める。


 (それも今日までです。 リーンに言われている様じゃ、私もまだまだでしょうからね……)


 そして、彼女の心の世界にどんどん光が差し込み、彼女の体を覆い隠すのであった。


 (ですがリーン、アナタのお陰で目が覚めましたよ、感謝します……)


 …………。


 「ふふ……」

 「シノ!」


 シノが微笑む。

 それは先ほどまでの壊れた笑顔とは違い、心が晴れたような笑み。

 そんなシノは、リーンに向けてゆっくり歩き、そして右手を差し出す。


 (シノ……ついに私を認めて……)


 今まで、罵倒を浴びせられたり、スタンガンで攻撃されたりと、少なくとも良い扱いを受けてこなかった。

 だが最近は、ビンタをされたりしているが、アズサの論文への協力をしてくれたりと、以前に比べて、微妙に扱いも優しくなっているような雰囲気だ。

 そして今日、シノは右手を差し出した。

 そんな積み重ねがあるからこそ、この動作はリーンに(やっと仲間として認めてくれたんだ!)と言う思いを抱かせる感動を与えているのだ。


 そして、リーンが右手を差し出し握手をしようとした瞬間。


 「ふぎゃ!」


 シノが差し出していた手を使ってリーンに対し、パーンと鳴り響く、仕返しのビンタをした。


 「何すんのよ! 痛いじゃない!」


 そう叫ぶリーンに対し、シノはニコニコしながら。


 「やられたらやり返す、当然でしょう? リーンはバカですか~」

 「何ですって!」


 そう楽し気に答えるのであった。

 それは、いつもの店内の風景を思い起こさせる、明るく楽し気な表情であった。

 そんな笑顔の裏でシノは。


 (今こそ、彼を守る為に頑張る時ですよね……。 だから先生に、色々教わったのだから……)


 昔の言葉を思い出し、ローグを助ける決意を固めるのであった。

 

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