3
リーンは病院の屋上の手すりから、星空に寂しげな表情を向けていた。
「やっぱり慣れないなぁ……こんな事……」
リーンは星を見ながらそう呟く。
今も、今までも、仲間たちを失ってきたリーン、だがその心の傷が簡単に癒えることは無い。
それは、仲間たちとの思い出、絆、それらが鋭い刃となって自身の心を傷つけるから……。
そんな形の無い傷を癒したくなった時、リーンは必ず星を見る。
その理由は、星の光が傷を癒してくれている様だから……。
「……ん?」
そんなリーンの背中からお腹にかけて、何かが触れる感触。
(何だろう?)
そう思ったリーンは、お腹に目線を向けると小さな手の甲が目に入る。
そしてリーンは。
「私はスライム達のリーダーだから、私が出来ることは何でもやるわよ……」
真剣な顔で星空に包まれた街の明かりを見ながら、今にも泣きそうな顔でしがみ付くマナに対し、冷静な声でそう答えた。
「ピピー! ピーピー、ピピピ! ピーピ!」(ローグを助けて! ローグも大好き、だから助けて! シノも大好き、だけどシノが泣いてる所、見たくない! だからお願い、助けて!)
マナは泣き顔をリーンの背中に押し付けながら、スライムの言葉でそう叫ぶ。
そんな涙を背中で感じながらリーンは、冷静に答える。
「無理よ……」
「ピ……?」(え……)
そして、リーンはその理由を続ける。
「一体何が出来るって言うの? こっちの世界の人間の技術で治療しても、ローグさんの身体に負担がかかりすぎで治療できないそうだし、こちらの世界の治癒魔法を使おうにも、スライムが使える魔法じゃ弱りすぎたローグさんを治療できないし、手詰まりよ……」
「ピー! ピー!」(うるさい! うるさい!)
それは絶望感漂うもの。
だが、それでも諦めきれないマナは、不条理に対する怒りを拳に変え、リーンの背中にポコポコとぶつけるが。
「ピ、ピ……?」(な、泣いている……)
リーンの足元に落ちる雫を見て、その拳の動きを止めた。
ぞしてしばらく、時が止まったように静かで静止画の様な時間が流れ、マナは拳を降ろすと、トボトボと寂しげな足どりでリーンから離れていく。
(まだマナは子供だから分からないだろうけど、マナにもいつか分かる日が来るわ……)
そして、遠のく足取りに、リーンは静かで悲しい思いを送るのだった。
…………。
のだが……。
その足音は、先ほどより短い間隔で音を立てながら大きくなり、そして。
「ピーーーー!」(くたばれ~~~!)
「ふぎゃ!」
その足音の主は、リーンの背中にドロップキックをかまし、リーンの体は屋上の手すりにめり込んだ。
「何するのよ、マナ!」
当然、そんな事をしたマナに対し、リーンはカンカンに怒るのだが。
「ピー! ピピピピーピーピーピー!? ピー! ピピーピー!?」(当たり前だもん! いつもはバカみたいに一生懸命してる癖に、何で諦めているの!? 大人って何? いざって時、理屈言って考え込むばかりで、何か行動できない役立たずなの!?)
それは、仲間を思いやるローグと不器用な優しさを持つシノ、そして一生懸命なリーンに可愛がられていたからこそ、言えた言葉なのかもしれない。
リーンは、マナに言い返しづらい事を言われ、口をもごもごさせながら。
「そ、それはそうだけど……」
と答える。
だが、そんな様子にうんざりしたのか、マナは大きな声で、リーンを一生懸命罵倒する。
「ピーピピピピー! ピーピーピー! ピーピピピー!」(そうやって口をモゴモゴさせるくらいなら、さっさと行っちゃえ! この、殺人料理人で、酔っ払ったら全裸の変態になる、殺人変態ニートスライムリーダー! ついでに役立たず、バカ、まぬけ、役立たず!)
「…………」
その言葉と共に、幼く、そして力強い拳がリーンの胸を襲う。
身体への痛みは無かった、ただそれは心に響くようだった。
そんな痛みは、徐々にリーンの理屈めいた考えを砕き、いつものリーンらしい表情へと戻る。
「そうよね、こんな時に諦めるなんて私らしくなかったわ……。 マナ! ローグさんを助ける為、この私が助けてあげようじゃないの!」
そしてリーンはマナに、明るくそう答えると、ドタドタと慌ただしく階段を下っていくのであった。
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