そして時は戻り……。


 「ふふん! さて、私の活躍、見てなさいよ~……」


 自信満々の鼻息を出したところで行動を開始しようとするリーンだが、全く状況の把握が出来ていないアズサは、アタフタしながらどういう事か尋ねるのだった。


 「り、リーンさん! 一体何がどうなっているのですか!?」

 「ふふ、よく聞いたわアズサ! これは、私が二人の恋のキューピットになり、スライムのイメージアップ! そしてアズサはその様子を論文に書いて、論文を進める、一石二鳥の作戦よ! 妹が考えてくれたの!」

 「そ、そうなんスか……」


 だが、引きつった顔でアズサは思った。


 (一体何が一石二鳥なのだろう?)


 と……。

 それに続くように。


 (この雰囲気を壊すことで、結果的にイメージダウンにもなりかねないのでは?)

 (根本的にその様子を論文に書く意味はあるのだろうか?)

 (と言うより、下手すれば自分にとばっちりが飛んでくるのではないか?)


 そんな思いが浮かび、最終的に。


 (とばっちりで先輩にやられる)

 (電撃でビリビリ)

 (痛いのは嫌!)


 連想ゲームの様な想像と共に、顔が青ざめていったアズサは、リーンを止める為に動き出す。

 リーンを傷つけないように、自分が傷つかない為に……。


 「り、リーンさん。 ちょっと待つっス!」

 「何、アズサ? って顔色悪いわよ? 何か変な物でも食べたんじゃないの?」


 この言葉は実に説得力がある。

 以前歓迎会と言う名目で、殺人料理を食べさせ、アズサの顔色を真っ青にした挙句、気絶させた料理界の革命児なのだから。

 この様な料理の新たな可能性を切り開いた彼女だからこそ、説得力があるのだと断言できるのだ。


 「い、いや~気のせいっスよ~。 それよりここは、様子を見るっスよ、様子を。 慌てて事をなすより落ち着いて確実にっス!」

 「アズサ、アンタこっち見て言いなさいよ……」


 だが、可能性と言う意味ではアズサも負けていない。

 ここまで隠し事が苦手と言いたげに、冷や汗が目立つ顔は青ざめ、目線は反らし、口は不自然な笑みを浮かべている、きっと正直者の血筋の始まりなのかもしれない。

 それと同時に、パシリ属性の血筋の始まりなのかもしれない。

 故に、研究者もその可能性に興味津々になる事間違いなく、将来的には科学雑誌の表示を飾る事になるだろう。

 だが、いずれにせよ、その事柄は史実ノンフィクションこの物語フィクションには影響しない、それだけは現実リアルなのだ。


 「見てるっスよ、見てるっスよ!」

 「何言ってるの! 目が明後日の方を見ているじゃない! どうしたの、どうしたのよ!?」

 「り、リーンさん! 揺らさないでほしいっス!」


 さて、視点を戻して……。

 明らかに怪しい様子のアズサの襟元を掴んで揺らしていると。


 「ピーーーーーーー!」(助けて、料理が殺しに来た!)

 「待つんだマナ! せっかく、おやつの練習をしてきたんだぞ、逃げることはないではないか!」


 泣きながら階段を下りてきたマナが、真っ先に目に入ったアズサの後ろに隠れてガクガク震え、そんなマナを追ってコトネが禍々しいオーラを纏った何かを、右手に持った皿に乗せて追いかけてくる。

 そして。


 「お前ら、何やってるんだ?」

 「おや? まさかノゾキですか? それともマナとベタベタしているのを見せつけているのですか? 答えてくださいよ?」

 「「あ、あわわわわわわ……」」


 その騒々しさからローグとシノに、居場所がバレたリーンとアズサは、互いに抱きしめ合いながら、アワアワしながら震えるのであった。

 その時アズサが。


 (非現実フィクションであってほしい)


 と思ったのは言うまでもない。

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