17.シノとローグ
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「おや、やっと帰ってきましたか……って何です、その竹の棒と袋は?」
「川釣りセットだそうだ。 売店で売ってあったんでな、買ってきたんだ、袋の中身は小麦粉と味噌を練り合わせたエサと予備の糸と針だそうだ。 ところでマナとアズサはどうしたんだ?」
「二人は寝室でゲームしていますよ。 まったくゲーム機を見つけたからと、こんな大自然の中でゲームをするとは、何を考えているのでしょうかね……」
「なに、ゲームのオープニングを着信音にする位だ、別段不思議ではないだろう?」
「それもそうですね、では行きますか?」
「そうするか」
コテージのドアの前で、シノとローグは和やかにそう会話すると、ローグを先頭にコテージの道を上る。
そしてその道をしばらく歩くと《川釣りコーナー》と書かれた木の看板が目に入る、ここが従業員が言っていた川釣りのポイントへの道だ。
その看板の刺す方向へ進んでいくと、急な坂道に無理やり階段を作ったと言わんばかりの、急な丸太の階段の道が現れ、二人はそこをゆっくりと下る。
そして、その終わりには。
「綺麗ですね~」
「あぁ……」
つい見入ってしまう程美しい自然の風景が現れた。
森のトンネルが二人を見下ろす様に生え、大きな波の様な崖の下を、透明な水の塊が狭い岩場の間を激しく、そして広いスペース穏やかに流れる。
そして1メートル程の深さがある穏やかな流れの中には、大小様々な魚が泳ぎ、それを鳥たちが気の上から狙っている。
それは自然が作ったアートとでも言うのだろうか?
そんな素敵な光景に二人はしばらく見入っていた。
…………。
「…………」
「…………」
川の流れる二つの音が響き、鳥が鳴くそんな中で、二人は岩場に座り、竹の先に釣り糸が付いた原始的な竿で、静かに釣りをしていた。
ただ、二人は釣りに集中を傾けている訳ではなく、何を話すか考えている訳であり、話す内容が浮かばない訳だ……。
その為、今の二人の時間は不器用なもので、時々行われる会話も。
「釣れたか?」
「いいえ、残念ながら」
と淡々と話す、30分間これの繰り返しだった。
だが、そんな静かな雰囲気はシノの竿に反応が出たことで終わりを迎える。
「……何か反応がありますね」
「釣れたんじゃないか?」
「多分……。 とりあえず、上げてみますか」
そしてシノは竹竿を上へ上げる。
すると、そこには餌に食いついた指先程の小さな魚がピチピチ宙を跳ねながら二人の前にゆったりと着陸する。
「子供みたいですね」
「だな……」
そんな小魚を見ながら二人は呟く。
ただその時浮かんだのは連れた嬉しさでは無く、今まで考える事が無かった、小さな命と言う物だった。
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