「そんな悩む事無いじゃない、マンドラゴラなんて可愛い物よ! マタンゴなんておかしいってモンじゃないわよ、マンドラゴラのキノコバージョンで『俺を食え~! 俺を食うんだ~!』なんて言いながら、迫ってくるのよ! 恐ろしいってもんじゃないわ!」

 「とりあえず、お前の世界に変態を取り締まる法律が必要なのは分かった……」


 ローグは呆れた顔を浮かべてそう口にしたが、リーンの世界紹介は終わらない。

 そんな程度では収まらない事を説明しようとしたリーンだが。


 「ローグさん。 法律でも追いつかないわ、あの世界は……」

 「ほう、面白そうな話をしているな?」

 「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」

 「うおっ!」


 特殊部隊でもないのに、湿ったギリースーツを纏ったコトネが竹林から突然立ち上がり二人を驚かせる。

 そして。


 「何を驚いている?」

 「お前、いきなりギリースーツ纏ったアホが視界に入ったら驚くだろう?」

 「兄よ、常にテストで95点以上を取る前生徒会長の私をアホ呼ばわりとは失礼ではないか?」

 「俺はテストの話では無くて、常識の話をしているのだが?」

 「私は常識では無くて、テストで95点以上出すのに、アホとは失礼ではないかという話をしているのだが?」

 「…………」

 「…………」


 淡々とした会話の後、二人は沈黙し。


 「無駄話を終えるか……」

 「そうするべきだな、兄よ」


 互いに(引くべきか……)と結論づけ、無駄な言い争いを終える結論を出したのであった。


 …………。


 「ふふん! ではあっちの世界の植物の話をするわよ!」

 「リーン、ぜひ話してくれ! 知的好奇心がワクワクして止まらないんだ!」

 「俺は寒気でゾクゾクしたのが止まらないから耳を塞ぐ……」


 さて、歩きながらリーンが自分の世界の植物や生物の話をしようとしている中、ローグはげんなりした顔でそう呟くと、両指で耳を軽く塞ぐ。

 ローグがこうなった理由、それはリーンが言ったマタンゴを想像したのがその原因だった。


 例えば、キノコ頭のブーメランパンツの筋肉質のおっさんがいたとしよう。

 そのおっさんが『俺を食え~! 俺を食うんだ~!』っと叫びながらこちらに寄ってくるとしよう。

 ……普通の男なら、寒気を感じてしまうのは当然ではないだろうか?


 故にローグは元気が無い。

 だが、異世界の話は気になる訳なので、そう言いながらも耳を軽く塞いで話を盗み聞ぎする。

 そして、そんなローグの事など全く気にせず、二人は異世界についての会話を始めるのであった。


 「ではまず最初にオトコギソウって植物の話をするわ!」

 「ふむ、オトギリソウみたいな名前だな」

 「む、でも発音は似ているわね! もしかしたら別次元で近い存在なのかもしれないわね!っと話が変な方向に行く前に話を戻して……。 オトコギソウはこちらの基準でいうと……20~60センチくらいかしら、熱い季節になると小さな黄色い花を咲かせる植物で、その汁で傷口を治療できる薬草でもなるの!」

 「へぇ~」

 「だけど、人間や魔族の男性には毒で、その成分が体内に入ってしまうと、数日後に男気を見せつけたくなる症状に襲われてしまうのよ」

 「具体的にはどうなるのだ?」と

 「例えば、体を鍛えだしたり、仲間を庇ったり、突然仲間の仇をうちたくなったり……。 まぁそんな感じかしら? でも人間も魔族も、そんな症状があるなんて知らないみたいよ。 私たちは昔から言われてきたから知っていたけどさ」

 「ほほう? 実に面白い植物だな? ちなみに女性が使うとどうなるのだ?」

 「女性には無害よ? それにダイエットの味方だし、あっちの世界では大人気の植物で……」


 とても楽し気に会話する二人、その話はどんどん盛り上がっていっている。

 だが、そんな話を聞きながらローグはふと思った。


 (オトコギソウを使用した男達が、仲間の仇と称して暴れまわったから、あちらの世界は戦争になったのではないだろうか……?)


 それが正しいかどうかは、今は誰も知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る