「い、一体なんの話をしてるんだ……」


 服に紅茶を染みさせながらも冷静に誤魔化そうとするローグだが、冷や汗がダラダラ、目線は激しく泳ぐ、どう考えても誤魔化せるわけがなかった。

 そんなローグを見ながら、リーンは呆れた顔でローグを追い詰める。


 「アズサが言ってたわよ。 ローグさん、私が来た時、信用できなくて監視していたって……」

 「そ、それは幻聴だ! 惑わされるな!」


 だが、ローグも両手を開き、待てと言わんばかりのポーズで抵抗するが。


 「惑っているのはローグさんの目なんですけど……」


 左右に激しく揺れるローグの瞳では、そう言おうが説得力がないだろう。


 「れ、冷静になるんだ! 現実をしっかり見るんだ!」

 「冷静に現実を見てほしいのはローグさんの方なんですけど……。 まぁ私、全然気にしてないから良いんだけどさ」

 「そ、そうか……。 なんか悪かったな……」

 「別に良いわよ、終わったことだしさ!」


 そして、そんな挙動不審な様子はリーンの一言で終わりを迎える。

 それは、昔の事を考えない性格だと言いたげな言葉だった。


 …………。


 「さて、俺は出かけるとするか……」


 紅茶を飲み終わり、洗い場に僅かに紅茶が残るティーカップを置くと、そのまま出かけようとする、すると。


 「ねぇ、私も行っていい?」


 と気遣うようにローグに尋ねる。

 その言葉に。


 (連れて行けばシノの計画が……、嘘をつくか? だが別に話しても問題は無いだろうが……)


 とやや迷うが。


 「ん? 良いが、別段面白い訳でもないぞ?」


 結局、目的を上げずにリーンの判断に任せるような言い方をした。


 …………。


 「ねぇ、ローグさん?」

 「ん、何だ?」

 「最近冗談を言わないよね? 何で?」

 「からかわれるのはシノで十分だろ? それとも、いじめられるのが好きなのか?」

 「んな訳ないでしょ!」

 「つまり、相手を選んでいるって訳だ、分かったか?」

 「ローグさんが気を使っているのは分かったわ」


 濡れた土の道を踏みしめながら、宿泊本館を目指す二人はそんな話をしながら向かっていた。

 朝早いだけあって、道の傍を流れる小川から涼しさが漂い、そして竹林から小鳥が泣く。

 そんな中、歩きながらもリーンは時折周りを見渡し、あるモノに近寄っては。


 「うわ~とっても懐かしい~」

 「ホント、この形状、あっちの世界以来よね~」

 「故郷を思い出すわ~……」


 と楽し気な表情を浮かべる。

 だが、そのあるモノがリーンたちの世界にもあるというのが、ローグにとっては驚きだった。

 何故なら。


 「それって雑草だぞ? どこにでもあるような……」

 「…………」


 それは、なんの変哲もない、丸く柔らかそうな葉の雑草だったからである。

 そして真剣な顔で静かに眺めるリーンを見て、ローグは思う。


 (一見ただの雑草に見えるが、話を聞いている限り、あちらの世界にもある草なのか? そう考えると、あちらの世界とこの世界はあまり変わらないのかもしれないな……)


 と……。

 だからこそ、真剣な顔でリーンに声を送る。


 「良かったな……、故郷の草に出会えて……」


 と……。

 だが、ローグは知らない。

 リーンはとっくに故郷にもある草に出会っている事を……。

 そしてリーンは真剣な顔をローグに向け、声を送る。


 「へ、何言ってんの? あっちの世界の草がこっちの世界にある訳ないじゃん」


 と……。

 予想外の言葉にローグは驚きと怒りが湧くが、ここで怒ってはいかんと思い、冷静に話を聞こうとする。


 「よし、一つ聞くぞ。 なら何で、『ホント、あっちの世界以来よね~』『故郷を思い出すわ~……』なんて言ったんだ?」

 「あ~あれは形が似ていたから、思い出すと懐かしいってだけでさ~。 ダンシングシードって言う植物で、一言でいうなら頭に植物が生えた人間の小柄の女性みたいな? 基本的に近くで演奏をし出すと飛び出させて回収するんだけど、それ以外の方法で地面から出すと、人間や魔族が即死する音波を口から発するわ! まぁもしかしたら、こっちの世界にもあるかもしれないけどさ~」

 「それはマンドラゴラではないのか? と言うかそんな奇怪な植物はこっちには無いぞ、絶対!」

 「ローグさん、何言ってるの!? マンドラゴラの場合、頭に花を生やしたブーメランパンツ一枚のマッチョなおっさんよ! 引っこ抜いたら満面の笑みを浮かべながら『男たるもの~! 男たるもの~!』って叫んで追いかけてくるのだから!」

 「お前の世界が分からなくなった……」


 だがあまりに理解不能な生物の存在に、ローグは頭を抱えることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る