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「何で、何でよ!? 何でローグさん力になれないのよ~」
ローグの言葉に、地面に背を向け手足をバタバタさせるリーン、だがローグには『力になれない』理由があった。
「あのなリーン。 お前がアズサの奴に内緒で、役に立ちたいというのは良く分かった。 だがな、具体的に相手が何を求めているのか? それが分からないと、俺はどうしようも無いんだ」
「具体的にって言うと?」
「そうだな……。 極端に言えば、相手が赤い色を欲しがっているのに、青い色を渡したって意味がないだろ?」
「まぁその通りだけど……」
「それと一緒だ。 これは俺の勝手な主義だが、卒論等の考える事柄っていうのは、絵を描く様な物だと思っていてな。 本人がそのテーマをどう下書きし、色を付け、味のある作品にするか? もし、他人が手伝いをするとしても、参考になる絵を用意したり、画家が欲しがっている絵の具を準備する位しかないんだ……ってどうした、驚いた顔をして」
「いや、意外とローグさんって芸術的な解釈をするんだなぁって……」
「ま、まぁ良い、ともかく本人がいなければ出来ないって訳だ! だから俺には力になれない」
だが、理由の語り方がやや芸術家気どりな発言により、リーンに不意打ち気味に言われた一言を受け、赤く染めた顔を隠す様に店の奥に入っていった。
さて、そんなローグの意見を聞いたリーンは、両手で鼻を隠す様にして考え始める。
店内は降り注ぐ大雨がザーッと鳴き声を上げる以外、基本的に静かで退屈な空間となっている。
時折外から、車や人が様々な音を上げるが、それもすぐに雨音に飲み込まれ、過去へと去っていく。
だが今のリーンには、それらの音は全く気にならなかった。
「おい、考えるなら甘い物でも飲め」
「へ?」
そんなリーンでも、目の前の事は意識せざるを得ない。
ローグにそう言って、カップに入ったカフェオレを差し出されたリーンは、キョトンとした顔でローグの顔を見続ける、すると。
「初めてか? カフェオレを飲むのは?」
と尋ねられ、リーンは無言でコクリと頷いた。
それはリーンが初めて感じる不思議な感覚だった。
だが、それは恋ではない。
かと言って、興奮している訳でもない。
身体を静電気が覆っているような、何とも不思議な虚無感。
だが、それは嫌ではない心地いい感覚。
そんな感覚を受けながらリーンは静かにカフェオレを口にした。
「おっと、何を幸せそうな顔をしているのですか?」
「へ?」
が、そんなリーンの背後には、いつの間にかスタンガンをバチバチ言わせる笑顔のシノの姿があり、バチバチと言う音が耳に入ったリーンの顔色は、みるみる悪くなっていった。
そして、流石に今回は何も悪い事をしていないどころか、良い事をしようとしているリーンが痛い目に合うのがどうかと思ったローグは、軽口ながらシノのスタンガンを制止し、更に計画を任せようとする。
「シノ、今日はリーンにしてはまともな計画を持ってきたんだ、暴力は良くないだろ?」
「まともな計画ですか?」
「あぁ、アズサの卒論を助けようと言う計画だ、それも内密にだ」
「卒論ですか? なるほど……」
初めは計画と言う言葉に疑問を感じていたシノだが、アズサの卒論と聞いた途端、右の拳を口に当て、真剣な顔を浮かべた。
「だが、俺は内密となると、結果を出せるか自信がないんだ。 だが、少なくとも付き合いが一番長いシノ、お前なら出来るのではないか?」
そして、右手のひらを向けられ、そう言われたシノは。
「まぁアナタの芸術家気どりの考え方だから、したがらないのも分かりますからね。 良いですよ、リーンの手伝いは私がする事にしますよ」
両手を降ろし、笑顔でローグの願いを快諾した。
…………。
「では、後の事は任せたぞ!」
そう言って店を後にしたローグの背中を見送ると、シノは。
「さてリーン。 スライムの紹介をしてみてください」
と今更ながらの事をリーンに言った。
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