12.スライム

 「私は、一体どうすれば良いっスか……」


 アズサは自分の部屋にこもって卒業論文に内容が進まず、パソコンとにらめっこを続けていた。

 そんなにらめっと相手のパソコンの画面に映るのは。


 《スライムをこの世界になじませるには》


 と言うタイトル、そして。


 《まずスライムとは?》


 と書かれた項目だけである。

 そんなパソコンに映る文字を見ながら。


 『はぁ、どうするっスかね……」


 そう呟いてしまう、その時。


 「何やってるの、アズサ?」

 「うわわわわ! あいた!」

 「何やってるのよ……。 ほら、大丈夫?」


 背後からスッと現れたリーンに驚いて、アズサは椅子ごと後ろに倒れてしまう。

 そんなアズサをリーンは右手を差し出して起こすと、不思議そうな顔で再度質問する。


 「ねぇ、一体何をやっていたの?」

 「これは卒業論文っスよ」

 「卒業論文? あぁあの!」


 パソコンを指さしながら落ち着いて答えたアズサに、ハッとした顔で卒論が何か思い出したリーンはきょとんとした顔で。


 「でも内容、書かれてないじゃない? もしかしてアズサ、こういうの苦手なの?」


 とアズサに、無意識のトドメをさした結果。


 「だって、どうすれば良いか分かんないっスもん! わーん!」


 彼女は泣きながら自分の部屋を飛び出していった


 …………。


 次の日の昼下がり、外は大雨。


 「そういう事で、アズサってば卒業論文で悩んでいるみたいなのよ」

 「……ところで、俺が聞いた話だと、スライムを売るって言いつつ、一度アズサの相談に乗った時、酒を飲んで酔っぱらった挙句、服を貰って大喜びしていたスライムがいたと聞いたが?」

 「だって、あんなに強い酒って知らなかったんだもん……」


 毒舌店主が買い出しに出かけるとの事で、カウンターに座り、店主が戻るまでの間の店番をしていたローグは、シノから聞いた事(10・卒業論文の出来事)を笑顔でからかい、リーンは両方の人指し指を合わせて、申し訳なさそうな顔で言い返す。


 「でも最近は、ちょっと方針を変えたのよ、幸福の好感を売って、スライムと人間が仲良く暮らせる世界にしたいの!」

 「それで酔っぱらって裸踊りをするんだろ?」

 「違うわよ!」


 ローグは、からかうと良い反応をするリーンの姿を見て(もう少しからかいたい)と思ったが、アズサの事も気になっていたので、そんな小悪魔的な思いを踏みつぶして、真面目に話をする事にした。


 「さて、リーンをからかう楽しみは置いといて……」

 「楽しみってなによ!」

 「落ち着け! 冗談だからな、もう言わないからな?」


 ただ、少し出鼻を挫かれる事にはなったが……。

 さて話を戻して、真面目に話をする前にローグには一つ疑問があった。


 「まず、話をする前にだ、アズサ本人はどうしたんだ?」


 そう、アズサ本人がいないのである。

 ローグとしては、本人を交えながらした方が良いと思っているのだが。


 「卒論に集中するって家にいるわよ」

 「すまん、質問を変えよう。 何でアズサ本人がここにいないで、代わりにお前がいるんだ?」

 「だって、アズサを驚かせるために勝手に行動しているんだもの。 いつも美味しい料理作ってもらったりしているから、その恩返しをこっそりしたいの!」


 リーンはこっそり役に立って、アズサを驚かせたいようだ。

 だが、ローグは申し訳なさそうにこう答えた。


 「リーン、すまないが力になれそうにもない……」

 「へ?」


 予想外の言葉にリーンは呆気にとられた。

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