「全く恥をかいたっスよ……」

 「それは僕の方ですよ……」


 結局店から追い出された二人は、顔を膨らませ不満そうに歩き続けるが。


 「何で一緒の方向に来てるんスか……?」

 「それは僕のセリフですよ……、何でこっちに来てるんですか?」

 「それはオイラが行きたくなった所がこっちにあるからっスよ!」

 「へぇ、偶然にしては出来すぎじゃないですかね……」

 「…………」

 「…………」


 表情だけはにこやかな二人は立ち止まる、だが隠しきれないその殺気のせいか、先ほどまでいた野良猫も隠れてしまった。

 そして二人は、また同時に歩みだす。

 だが、その足取りは徐々に早くなり、遂には……。


 「何なんスか!? オイラが走っている方向についてこないでほしいっス!」

 「それはこちらのセリフですよ! 何でこっちに走ってくるのですか!」

 「だからオイラはこっちに用事があるっスからね! だから……」

 「だから僕だってこっちに用事が……」


 互いの顔を笑顔で睨みながら、全速力で目的地へ向けて走っていくのであった。


 …………。


 「だからオイラは!」

 「僕は!」


 そして言い争いながらとある建物に、け破る勢いで一緒に飛び込む、すると。


 「おやおや~アズサにキョウスケではないですか~。 私の知らない間に、二人仲良くデートですか~? 良い御身分ですね~」

 「あ、お前ら……、あ~~~……」


 カウンターで、のんびりローグと紅茶を飲みながら話していたシノは、にこやかな笑顔で二人を出迎え、ローグは頭を抱える訳だが……。


 「ね、姉さん!? 何でにこやかに笑顔で右手に持っているティーカップを割るんですか!?」

 「せ、先輩!? 何で左手にスタンガンを持ってるんですか!?」


 二人はローグが頭を抱えた理由を遅れて理解した。

 右手に握力のみで割られたティーカップ、そして左手にはスタンガン、少なくともにこやかな顔は偽りだと断言するには十分な状況証拠だろう。

 そして、シノは二人に向けて、ゆったりと歩みながら表面は優しく、そして寒気がする怖さを隠した声をゆっくりと出す。


 「いや~キョウスケ……、私の可愛い後輩に手を出すなんて、去勢が必要ですか……? いや~アズサ……、私の可愛い弟に手を出すなんて、避妊が必要ですか……? ただ、それは百歩譲って許したとしましょう……。 ですが、良い感じで温まった店内の雰囲気をぶち壊す様に、ドアを激しく開けたのは許せないですよ……?」

 「「あ、あわわわわわ……」」


 二人は顔を青ざめさせ、そして店を飛び出す、そして。


 「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」」

 「…………」


 後ろからスタンガン片手に、無言で迫るシノから二人は逃げまどうのであった。

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