11.二人の新生活……までの道のり

 「やっと着いた……っス……」

 「遅いじゃないアズサ、せっかく歓迎会の準備をしていたのに、もう夜になって……、と言うかどうしたの?」

 「実は……」


 引っ越し業者が運んだとみられる段ボールが、白い2階建ての一軒家の入り口に置かれ、リーンがその前で腕を組んで待っていた。

 そしてボロボロのアズサは、その道中をリーンに語り始めた。

 彼女の不幸の一日の始まりを……。


 …………。


 「えっと、以上で大丈夫っス」


 午前10時過ぎ、彼女の荷物はアパートの一室から全て無くなった。

 彼女の服、鏡、テレビ、化粧品、ベット……。

 それら全て無くなり、唯一アズサの物があるとすれば、今着ているカジュアルなデニムの短パンに文字の入った白いTシャツ、そして『GCV2007』と書かれた絵付きの黒いキャップ位だろうか?


 「今までありがとうございましたっス」


 そして彼女は、部屋に一礼し、大家さんに挨拶をし、アパートを後にしたのだが……。


 「ふぎゃ!」


 道へ足を踏み出した第一歩、右から衝撃を受け、背中から倒れこんでしまう。

 そしてアズサが衝撃の方に目を向ける、そして。


 「す、素敵っス……」


 アズサは頬を染め、ついそう言葉を零してしまう程の、高校の制服を纏う学生がお尻をついていた。

 体はアズサと変わらない位の小柄で、大変整った顔にやや長い髪をしている為、美少年とも美少女ともとれる印象を受ける、だがズボンを履いているところを見れば、性別が男だという事は分かる。

 特に大きくおっとりした瞳を見ると、優しさと知性を持ち合わせた雰囲気を感じさせる。


 「だ、大丈夫っスか?」


 真っ赤なアズサは右手を差し出す。

 だが、そんな彼女の鼓動はドンドン早まっていっている。

 そして、素敵な王子様との衝突、これは運命なのだろうかと?

 考えれば考える程、彼女の鼓動を早くする。

 そして、彼女と王子の目線が重なり、しばらくの沈黙の後。


 「あ……の……」

 「は、はい!?」


 途切れ途切れで弱弱しい声を出す少年にときめくアズサ。

 そんな声を聴いたアズサは。


 (も、もしかしてこれから恋が生まれるっスか!?)


 珍しく心をときめかせ、妄想力を最大まで発揮する。

 そして、少年は口にする、弱弱しく奇妙な言葉を。


 「辛さエナジー不足しちゃって……、僕のリュックに入っている薬、飲ませて……」

 「はい!?」


 「辛さエナジー」全く意味の分からない少年の言葉にアズサの赤面した顔は、困惑した表情へと姿を変えた。

 だがとりあえず『薬を飲ませてほしい』との言葉が脳裏を過ったアズサは、ハッと我に返り、少年のリュックを漁って薬を探す、すると。


 「こ、コレは!?」


 タバスコと書かれた、赤くドロドロした瓶が、アズサの目の前に現れたのであった。

 

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