「うん、これに決めたわ!」

 「オイラも決まったっス!」

 「いやー、そんなに気に入った服があったの?」


 それは、カウンターに座るキョーコが口にする程の量だった。

 アズサの前には綺麗にたたんである服が腰下まで、そして隣のリーンは大雑把に服で小さな山を作るように肩下まで服を積み上げる。


 「いや~、可愛い服が多くてこれでも減らした方なんスよ~!」

 「いや~、可愛い服が多くて、どんどん追加しちゃってさ~!」


 そして二人は対照的な事を口にし、ニコニコと満足した顔を浮かべている姿を見ると、気持ちは一緒らしい。

 だが、ここでリーンに対しキョーコはとある疑問を投げかける。


 「ところでさリーン、アンタ一人でブラとか大丈夫なの?」

 「そ、そりゃあ勿論……出来る……わ、よ……」


 リーンの目線は明後日の方を向いて、明らかに弱弱しい声を出す。

 そして、その模様を見ていたキョーコは、頬を右手の甲に付け、右手の肘を左手で支えると、母性溢れる暖かな表情で優しく問いかける。


 「アンタ、出来るの?」

 「だから、その~出来る……、わ、よ」

 「出来るの?」

 「ああもう、出来ないわよ! もう面倒だし履かないでいいわ!って思ってたわよ!」


 そして、そんな雰囲気の問い詰めは、リーンのそんな部分を表に出す。

 ただそれは、キョーコにとっては想定内だったようで。


 「うん、そうでしょうね。 だからアズサ、アンタはリーンの住む一軒家に一緒に住みなさい。 費用とかは安心しなさい、アタシが言ったのだから、それ位は出すわよ」

 「え!?」


 アズサに対し、リーンと同居する様にキョーコは真面目な顔でそう口にする。

 だが当然。


 「な、何で何ですか!? と言うか、いきなりそう言われても!?」


 と戸惑うのであった。

 だがキョーコには、そう提案した理由があった。


 「アズサ、アンタ卒論決まってないでしょ?」

 「そ、それはそうですけど……」


 そしてキョーコは人刺し指を天井に指し、優しく微笑みながら話を続ける。


 「この子がこの世界に馴染むためにどうすれば良いか? それを卒論のテーマにすればいいじゃない」


 意外と真面目な提案だった。

 ゆったりとそう口にしながら近づき、アズサの後ろに回り、右手で頭を撫でながら、アズサの耳に甘い声で囁く。


 「この世界にスライムが馴染む為に、一体どうすればいいか? それに対する弊害はないのか? それは大学生で唯一、彼女と交流をもつ貴女しかできない研究よ? それに彼女も、貴女を必要としている。 いくら馴染んていると言ってもこっちの世界を完全に知っている訳ではないでしょう? そしてそんな彼女を支えられるのも、彼女と対等に近く、浸しい関係を持つ貴女だけ……」


 そして、両手を首元を優しく抱きしめ。


 「それに、心優しい貴女が、ここまで言われて友達を放っておけないでしょ?」


 そう優しく呟くのであった。

 そんな言葉を聞いて、素直に考えるアズサだったが、ふと目に入ったリーンの見開いた瞳が目に飛び込む、そして。


 「わかったっス。 リーンちゃんが良いのであれば、オイラ一緒に住むっス!」


 アズサは、いつもより低く落ち着いた声でそう宣言するのであった。

 そして、リーンは不思議そうな顔を浮かべて口を動かす。


 「ねぇ、キョーコ……。 何でアンタ、アタシが一軒家に住んでいる事を知ってるの?」

 「そりゃああの家、アタシの会社所有の持ち物だし?」


 その後、話は何度も逸れ、二人が同居するという結論が出たのは、それから30分経った後の事になった。


 …………。


 そんな、ワイワイした店内をよそに、着替えたシノは入口から外に出た。

 トラックが並ぶ店の入り口には、ローグが壁に寄り添い、両手には何着も服を持つ。

 そしてその隣にはマナがローグのズボンをギュッと握って立っている。

 シノはそんなローグをみて、ニッコリ笑う。


 「私が誘拐されたと思いました? まったく慌てて電話してくるなんて……。 マナもおかえりなさい」

 【 (*´ω`*) 】(良かった、正気に戻ってる!)

 「ふん、電話に出ない店主が悪いだろ? ほら、服だ。 町中に投げ捨てられていたと、ここに来る途中でバッタリ会ったおっさんが言っていたぞ? スマホに張られたプリクラとか、財布に入った免許証とかから、お前たちの持ち物だと分かったらしいが……、何があったんだ?」

 「ふふ、秘密ですよ。 ところで乙女の香りに興奮しました?」

 「そんな訳ないだろうが……。 そしたら、俺は帰るぞ。 じゃあな、マナ」

 【 (^^)/ 】(ばいばーい)


 そして、左手で見送るマナを背にローグは去っていった。

 そんなローグの背中を見ながら、服に微かに残るローグのぬくもりを、シノはぎゅっと胸に抱きしめるのであった。


 


 

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