「うっひゃっひゃっひゃっひゃ! 今日は幸せっス、幸せな日っスよ~、あっひゃっひゃっひゃ、あ、気持ち悪いっス……、オエ~~~……」

 「わたし、みんな、愛してるわ~! スライム、わたし、幸せ~! アズサも、シノも、キョーコも、大大大大好き~!」

 「先生は嬉しいわよ……、シノがこんな素敵な子に育って! もう、面白可笑しくてたまんない! もう飲まずにはいられない!」

 「グー……グー……」


 96%のアルコールの威力は強大だったらしい。

 アズサは連続バク転を行った後ゲロを吐き、リーンは酒瓶を持って机の上で叫び、キョーコはシノにべたつき、シノは爆睡してしまった。

 それは混沌と呼ぶには十分な惨劇だったのだろう。

 コトネはマナを連れて、混沌の世界から、祖父と兄が争っているであろう現在の自宅へと、逃げるように去っていった。


 …………。


 「「「「頭が痛い……」」」」


 鼻につく匂いが店内を覆う中、四人は頭を押さえて、それぞれ並べた椅子や机から起き上がる。

 店内は汚い液体が蒸発した茶色い後が残り、そてテーブルをベットの様に並べた後があれば、椅子をピラミット状に積み上げた芸術がある。

 それは酔っぱらい達が作り上げた世界だろうが、それ以上に問題なのが……。


 「「「「服が無い……」」」」


 4人とも下着なのである、リーンに至っては服すら無い。

 そして、そんな光景に頭の痛みがぶっ飛ぶ、アズサ、リーンの2人だが、それより早く、シノ、キョーコが口を開く。


 「うう、私は部屋に着替えがあるから大丈夫ですが……」

 「私はGパンとかも無いけど、別に下着だけで歩いて帰っても問題ないでしょ」


 黒の挑発的な下着のシノが頭を押さえながら初めに冷静に言葉を出し、次に赤く挑発的な下着のキョーコが落ち着いた様子で、倒れた椅子を起こして座る。


 「ふ、服が無いっス、無いっスよ!」

 「ぎゃーーー! わ、私にいたっては全裸よ! どうするの、ホント!?」


 そんな二人とは対照的に、可愛らしいピンクの下着のアズサが首を右往左往させ、最後にリーンが手で体を隠しながら目を泳がせ、店の隅で小さくなる。

 リーンはとても戸惑いを隠せない、と言うのも。


 「アタシ、あの服しか無いんだって! どうしよ、無ければ人型にはなれないわ!? 一生スライム形態のままでいなきゃいけないのかしら!?」


 リーンの服は、あの民族衣装の様な服は、1着しかなかったからである。

 だが、この発言を聞いたキョーコは。


 「ならリーンちゃん、アンタうちの工場の服とか下着、貰わない? ついでにアズサちゃん、アンタも一緒にどう?」

 「「へ?」」


 腕を組み足を組み淡々と二人に問いかける。

 この申し出は思ってもいなかったものだった為、二人とも言われた直ぐは驚きを隠せなかったものの。


 「いいの!? お金もあんまり無いし、貰えたら貰いたいわ!」

 「お、オイラは別に……」


 とそれぞれ真逆の反応。

 だが、遠慮しがちなアズサにキョーコは。


 「バカねぇアズサちゃん、アンタ素材が良いのだから、オシャレしないと勿体ないわよ? それに、アタシが勝手にそうしたいの。 だから拒否権はアンタには全く無いの! という事で行くわよ~!」

 「へ!? いだだだだ、ちょ、ちょっと手を引っ張らないでほしいっス!」


 ジーパンにTシャツの自分はどうなんだ?とツッコみたくなる自己主張を明るく押し付け、アズサを引きづるようにして工場への歩みを始めた。

 そんな二人に、シノは。


 「先生。 その前に、下着姿で店の外に出るのは止めましょう。 痴女として捕まるかもしれませんから……」

 「え? いいじゃない、水着で歩いても痴女にならないんだから」

 「お願いです、先生……。 私捕まってほしくないんです……」

 「可愛い教え子の真剣な表情のお願いを聞かない訳にはいかないわね……」

 「ありがとうございます先生!」


 右手でアズサの頭を鷲掴みしてキョーコの歩みを止めつつ、流石にその姿ではマズいと冷静にキョーコを説得し、痴女が外に放出される事態は避けられたが。


 「いだだだだだだ! オイラの手と頭がちぎれるっス! 二人とも離してほしいっス!」


 そんな微笑ましい表情に囲まれて、アズサは苦悩の表情を浮かべ、盛大に悲鳴を上げるのであった。

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