「……つまり、卒論とは、卒業するために必要な研究と言う訳だ、リーン」

 「なるほど、卒論ってそういう事ね。 理解したわ、妹!」


 さて、コトネがリーンに説明する間、アズサは(やっぱり相談する相手を間違えた……)と後悔していた。

 だがリーンの次の一言が、その後悔を払拭させる。


 「なら、私たちは長年研究の名の下に、酷い目にあわされてきた訳。 つまり、研究されるスペシャリストだと思うの!」

 「あ! あ~……」


 が、払拭されたのはリーンのテンションに飲まれた一瞬のみで、冷静に考え直したアズサは。


 (それでどうしろって言うんスかね……)


 という根本的な疑問に襲われる。

 それはコトネも同じだったらしく。


 「リーン。 スペシャリストだから、何なんだ?」


 腕を組み、右目を細め、左の眉を上げ、リーンに疑問をぶつける。

 当然、一時のテンションでそう口にしたリーンは答えられる訳もなく。


 「え? その~、あの~……」


 そう口をモゴモゴさせるしかなかった。

 だが、ここで。


 「まぁまぁアズサちゃん。 落ち着くことも大切よ?」

 「きょ、キョーコさん!? どうしてこちらにいるッスか!?」


 アズサの背後から、キョーコが心配そうな声で右手をアズサの肩に乗せる。

 そして振り返った向こうには、恥ずかしさのあまりに思考が停止したのか、シノがカウンターで赤面した頭を両手で隠し、固まっている。


 「ちょっとからかいすぎたみたいでさ~。 ほら、ここは水を飲んで一旦落ち着きましょう? 考えるときは、冷静にね」

 「そ、そうッスよね、分かりましたキョーコさん」


 そんなシノをチラッと見た後キョーコを数秒見つめると、キョーコにコップを差し出す。

 そして、キョーコの意見通り、水を飲んで落ち着こうと思ったアズサは、コップを受け取ると、それを一気に飲み干し……。


 「あははははは、何だかみんながいっぱい~ッス? わぁ、みんな可愛いっスね~」


 顔を真っ赤にしておかしくなるのであった。

 流石にこの状況の変化に驚きを隠せないコトネとリーンは。


 「きょ、キョーコさん、何を飲ませたんだ!?」

 「そ、そうよキョーコ! いったいアズサに何を飲ませたのよ!?」


 と焦りを隠せない早口でキョーコに詰め寄る。

 すると、キョーコは悪びれも無く、どこからかビンを取り出し机の上に置くと。


 「スピリタス(アルコール96%の酒)だけど何か?」


 と焦る二人を不思議そうに見ながら答えるが、二人はスピリタスを知らない。

 その為。


 「スピリ……? 妹分かる?」

 「これは酒……なのか?」


 と互いに首を傾げて戸惑ってしまう。

 そんな二人の戸惑いなど気にせず、キョーコは笑顔を浮かべ。


 「リーンちゃん、飲めばわかる!」


 リーンにスピリタスの瓶を差し出すのであった。


 …………。


 その頃、マンションでは。


 「う……」

 「よっしゃあぁぁぁぁぁぁ! ワシのプロテイン愛の勝ちじゃあぁぁぁぁぁ!」

 「何がプロテイン愛だよ……ガク」


 戦いに敗れた老人が雄たけびを上げ、戦いに敗れた孫は地面に倒れこんでいた。

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