さてカウンター越しのキッチンの上には冷蔵庫から取り出された食材、調味料、そして調理器具等がズラッと並んでいる。

 その一覧がご覧の通りである。


 ・玉ねぎ

 ・にんじん

 ・にんにく

 ・じゃがいも

 ・ひき肉

 ・牛のヒレ肉(ステーキ用)

 ・白米

 ・チーズ

 ・ヨーグルト

 ・バナナ

 ・牛乳

 ・練乳

 ・カレー粉

 ・ソース

 ・コーヒー

 ・砂糖

 ・唐辛子キャロライナ・リーパーの粉末

 ・オリーブオイル

 ・業務用ミキサー

 ・鍋

 ・フライパン

 ・炊飯器

 ・胃薬(粉)

 ・リーンの持ってきた袋の中身


 これを見て、多くの人は何を作るか?と問われれば、十中八九カレーかクリームしシチューではないだろうか?

 もちろん、胃の痛い人物にカレーやクリームシチューはどうなの?と言う疑問や、そもそも二人には胃薬を飲ませれば良い、お粥を作るべき等、色々な意見があるだろう。

 だが今回は、それらの意見を一度忘れ、一生懸命な二人の料理を優しい目でご覧頂きたい。


 …………。


 「えーっと、これだけ食材を準備したんだけど、何を作ろう?」

 「ふむ、難問だな……」

 「健康も考えなきゃいけないわよね、妹さん!」

 「ふむ、それだけでなく味も良くなければならない、リーンとやら」

 「「うーん……」」


 並べられた食材を見て、リーンはそう口にし、コトネもそれを深刻そうに見つめる。

 二人を元気づけ、そして美味しい料理。

 これが二人を悩ませているのであった。


 …………。


 さて早速ここで二人について、追加の報告がある。

 既に感づいた方が多数を占めるかもしれないが、二人は料理の天災クッキングテロリストである。

 ……以上の事を頭に入れて、改めて一生懸命な二人の料理をご覧ください。


 …………。


 どうするか、深く考え込む二人。

 だが、ここでコトネがとある考えを口にし、それが二人の料理開始の合図になった。


 「リーン、私に考えがある。 以前テレビで、生のまま野菜等を取れば酵素が取れると言っていた。 つまり、体調を崩した二人の健康の為、生野菜を使った一品が必要だと思うのだが?」

 「なるほど! ならミキサーを使ってジュースを作るのはどうかな?」

 「良いセンスだ、リーン。 私もそれに賛成だ!」

 「では早速ジュースを作ろう!」


 そして二人は健康によさそうな物、そして味付けによさそうな物を互いに上げながら、二人はそれをミキサーに投入する。


 「まずは《バナナ》ね、体に良いっておばちゃんが言ってたし!」

 「腸内環境を考えて《ヨーグルト》も忘れてはいけないぞ」

 「カフェインも体に良いらしいわね、なら《コーヒー》も入れなきゃ!」

 「味を調える為に《砂糖》も忘れてはいけないだろう?」


 ここまでなら美味しいもので終わっただろう。

 ここで終わっていれば……。


 「そういえば発汗作用が弱いわね。 ここは《唐辛子》をいっぱい入れましょ! な、何かショボショボするけど、効果絶大って事よね!」

 「辛さにはスパイシーさが必要だ! 味を調える意味で《カレー粉》は忘れてはいけないだろう?」

 「健康の為に《にんにく》をいれなきゃ! 匂いがあるけど、それだけ健康って事よね」

 「なら、にんにくによって胃が痛まないように《胃薬》を投入しよう!」

 「あ、そうだ、癒し草いやしそう……じゃなくてアロエも入れましょう! あ、アロエは私の世界では癒し草って名前の薬草でね、前に鍋島のおねえさんのお手伝いに言った時に発見してさ、こっちの世界にもあるんだと驚いちゃって! それで最近、定期的に貰っているんだけど、まぁとっても新鮮さがあって体が癒されるって言うかさ~」

 「ほう、そうなのか? ん、こっちの世界にも?」


 『こっちの世界』と言う言葉に、疑問を浮かべるコトネを置いての余談だが、一般的に生のニンニクの殺菌作用は強力で、良くて一日一個が良いところだろう。

 それを3ふさ入れたとなると、どうなるか?

 ・それは『人間、生にんにくを3個口にするだけで、相当な痛みが数日続く』

 そう言えば、答えはおのずと見えてくるだろう。

 つまり『良い子のみんなは決してマネをしてはいけないよ!』という事だ。


 そしてキャロライナ・リーパーという唐辛子、公式の辛さは約155万スコビルあると言われる。

 さて、この辛さを表現するなら。

 ・味覚でなら鷹の爪は4万~5万スコビル、身体的になら一般的な催涙スプレーが1万5千~9万スコビル、最も強力なもので18万スコビルなのだそうだ(wikipediaより)

と言えば、二人が大量に入れた結果、どうなっているか、想像できるのではないだろうか?

 勿論結論は『良い子のみんなは決してマネをしてはいけないよ!』という事である。


 さて話を戻して、絶対にマネをしてはいけない行為クッキングをした二人は。


 「うーん、こんなものよね? 妹ちゃん」

 「問題ないだろう、リーン?」

 「なら、ミキサーで混ぜようか?」

 「ふむ、それがいいだろう」


 疑問の文字すら浮かべず、回るミキサーの中は、勿論真っ赤だ。

 血のように真っ赤な唐辛子の粉末が、液体を赤く染め、生のニンニクは切り刻まれたことにより、香ばしくて強烈な匂いを放漂ただよわせ、そしてまた、唐辛子に含まれるカプサイシンが、催涙ガスの効果を発生させ、目をショボショボとさせる。

 それは当然。


 「うう、匂いが……私、ニンニクの匂い、苦手ですのに……」

 「う、目が……目が……。 目が痛い……ぞ……!」


 椅子の上に寝ている、ローグとシノが苦しめる事になるのであった。

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