それはローグがまだ中学1年生だった頃の事の話。


 「宮城さん、ちょっといいですか? 人手が足りないので、傷害を起こした少年の取り調べをしてほしいとの事で」

 「ちょっと待ってって、今ピザを食べているんだからさ~」

 「そう言ったら、達川さんが急げと伝言が……」

 「はぁ……分かった、分かりましたよ~全く……。 でも食事をしながらで良いでしょ? 場所はどこよ?」

 「2階の一番奥の……」

 「あぁあそこね? 了解了解……」


 慌ただしい様子の警察署の中で、呑気に食事をしていた宮城は、若い刑事にやる気のなさそうにそう返事をすると、暖かなピザの箱と共に言われた取り調べ室へ足を運んだ。


 …………。


 「全く止めてほしいよ殺人なんて……。 警察は暇、コレが最も皆が幸せになれる事なんだからさ~、そう思わない、君?」


 不良同士の喧嘩で捕まった一人の少年に対し、取り調べ室に入って間もなく口にした発言に対し、少年は「は?」っと威嚇気味の疑問を口にする。


 「あ、もしかしてこのピザ気になる? あ~これね、最近できた近所のピザ屋さんのピザでさ~、とっても大きくてサラミがいっぱい乗っていて美味しいんだよね~。 それに、アツアツのまま宅配してくれるのが素晴らしいね、モグモグ……」

 「…………」

 「それでね、ピザって言えば、本場はイタリアだよね。 最近聞いた話だと、イタリアにはピザの自販機があるってさ、いやー日本にも導入してほしいわ、アレは! モグモグ……」

 「…………」

 「そうそう、ピザって言えばチーズだよね~、僕は最近、ゴルゴンゾーラチーズ、あれに興味を持っていてさ~、あれってピザに合うのかなって……」

 「……おい」

 「ん? 何だい? モグモグ……」


 先ほどまで口を閉ざしていた少年が、急に口を開いた。

 だがその顔には、疑問と不快感が入り混じっているような表情で、現状を良くは思っていない様子。

 そして彼は、今まで口にしなかった気持ちを一気に言葉にする。


 「取り調べだろ?」

 「そうだよ」

 「なら何でアンタ、ピザの話をしてるんだ?」

 「ピザが好きだからだよ」

 「取り調べとピザの話、関係あるのか?」

 「関係ないよ」

 「ならさっさと帰らせろよ!」

 「ダメだよ」

 「それとピザを食いながら話すの止めろよ!」

 「イヤだよ」


 だがそれを飄々と交わす宮城は。


 「君って短気だね~モグモグ……」


 今の状況を気にせず、呑気に口にし、新たなピザを口に加える。

 だが当然それは。


 「てめぇ、ぶっ飛ばす!」


 少年の拳を呼ぶことになるのだが、腐っても刑事、宮城の顔を目掛けて飛んできた拳を体をスッと傾けて避ける、が。


 「あっちぃ!」

 「あ、俺のピザが!」


 顔の移動にピザがついてこれなかった。

 先ほどまで顔があった場所から逃げ遅れたピザは、少年の拳をチーズで熱く絡みつき、そして少年に軽い火傷を負わせた。

 

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