「わっはっはっはっは、久々殴り合ってみたが、鍛え方が足らんのう!」

 「はぁはぁ……ふざけるなって……、人間とゴリラを一緒にするなよ……」


 結果、人間はゴリラには勝てなかった。

 ゴリラジジイと呼ばれた老人は、両手を腰に当てて高笑いし、そして人間であるローグは、四つん這いになってハァハァと息を荒らげるのであった。


 「ところで何の用だ?」

 「あ?」

 「だから何の用だって言ってるの、俺は!」

 「ワシがか?」


 そして老人は腕を組んで「うーん」と考え込む。

 深く神妙な表情、そんな表情は直ぐに解け、堂々たる答えを口にする。


 「わからん! お前、知らんか?」

 「俺だって知らないよ!」


 流石にこの老人を前にしては、ローグも普段の態度でいられないらしい。

 ローグは普段から考えられないほど、冷静さを書いている。


 「何で孫なのに、ワシの理由を知らないんじゃ!」

 「俺は超能力者じゃないぞ!」

 「いいのか!? そんな冷たい言い方されると、ジジイ死ぬぞ! すぐ死ぬぞ!」

 「人をボコボコにするゴリラジジイが何を言ってるんだ!?」

 「ええい、お前に思い出させるために鉄拳をだな……」

 「知らない事を思い出すことなんて、できないだろうが!」


 そして、再び取っ組み合いが始まろうとしたその時。


 「祖父、そして兄よ。 一体何を争っているのだ?」


 一人の女性の声でその動きは止まる。

 やや垂れた細い目に、不満そうな口元、束ねたセミロングの黒髪、その3点から、規則を纏ったキャリアウーマンという印象を受けるが、彼女の纏う白い制服を見れば15~18歳位だと理解できる。

 そんな女性にローグは。


 「おいコトネ。 生きた規則であるお前が何でここにいるんだ?」


 と右の眉を上に上げ、落ち着いた口調でそう尋ねた。

 すると、兄弟である事を証明するように右の眉を上げ、落ち着いた表情で理由を述べる。


 「私の進学予定の大学がこちらにあるからな。 なので、こちらの環境になれるのが半分、ゴミと同居している兄が心配なのがもう半分、以上だ、問題はあるか?」

 「大ありだ、これは俺なりに片付いているんだ、お前の考えで片付けられたら、物の場所が分からなくなる」

 「それは片付けを行わない人間の良い訳ではないか? 第一ゴミと共同生活は体に悪いぞ? まぁ、私がしばらく一緒に暮らすのだから、その間の健康を保証しよう」

 「お前! 俺と一緒に暮らすつもりなのか!? 絶対反対だからな! それもいきなり言うのはダメだろう!?」

 「私は電話を何度もしたぞ? 出ないほうが悪い」

 「電話に出るたび説教されていたら、電話にも出たくなくなるだろ!」

 「説教されるような状態である兄が悪いだろう?」

 「お前は前から生真面目すぎるんだよ! たかが一日掃除しなかっただけで説教したりするとか……」

 「たかが一日と怠けているからこそ兄は、そんなだらしない性格になったのだ! 第一にだな……」

 

 そんな言葉が積み重なり、言い争いを始める兄と妹。

 それは互いに反する考え故に、絶対的な答えが出るわけが無い不毛な争いである。

 そして、自分の意見を否定するという事は相手の意見に従うという事、それだけはそれぞれの信念が許さない。

 故に長い闘いが巻き起こる。

 そう思われた時だった。


 「コラ、お前たち、ジジイをほおっておくな、死ぬぞ! と言うかほんと死ぬぞ、マジ死ぬぞワシ!」

 「「…………」」


 この死ぬ死ぬ詐欺を口にする老人のわがままによって、一様は短期の終息を

得ることはできたようだ。

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