それから2時間程経った午前10時34分。

 ドアのベルが鳴らし、部屋に入ってくるニコニコ顔、珍しい事に、特徴的な長い髪は束ねてる。

 そして部屋を見た彼女は、いつもの様にローグをからかい始める。


 「おやおや、電話で聞いていましたが、いつからロリコンになったのですか?」

 「……それは良いから、とりあえず子供服を買ってきてくれたか?」

 「おやおや、張り合いがないですね~、ん~~~」

 【 Σ(・□・;) 】【 (*_*) 】


 右手に子供服が入った袋を持ってやってきたシノはそう言うと、自信の笑顔を座っている少女の視界を占拠する近さに移動させる、それも一瞬で。

 が、それは当然少女を怖がらせる事になる。

 シノの顔が目の前を覆ったことにビクッとした少女は、ササっとローグの後ろに素早く隠れる。


 「お前な、会って直ぐの子にそんな事するのは、流石にダメだと思うぞ……」

 【 ( 一一)…… 】

 「あ、あははは……。 ごめんなさいね、可愛い少女ちゃん」


 流石のシノも子供には優しい、それは人間としての最低の優しさがある証拠なのだろう。

 そんなシノは、呆れた顔のローグと警戒する少女に対し、頬をかいて目線を斜め上に向け、不器用な笑みを浮かべるしかなかった。


 …………。


 「おや、似合いますね~、可愛いですよ~少女ちゃん」

 「あぁ、ひまわり畑で走り回る姿が似合いそうだな」

 【 (*‘ω‘ *) 】


 白いワンピースに麦わら帽子、それは少女にピッタリ似合う恰好だった。

 そんな少女の姿をしゃがんで見ていた二人は、そう口にして微笑む。

 そして、そう言われたのが余程うれしいのか、少女は嬉しそうな笑顔を浮かべ、ピョンピョン跳ね、そして。


 「おっと、そんなに嬉しいのか?」

 「おやおや~? 元気ですね~。 そんないい子には、私手作りのアップルパイをあげましょうね~」

 【 (≧▽≦) 】


 体の一部であるホワイトボードを持った手の力を緩めたと思えば、次の瞬間にはローグのピョンと飛びつき、その反動でローグは背中から倒れこむ。

 そして、シノがそう言って差し出したアップルパイをローグの膝の上に乗りつつ手に取り、それを一気に口に放り込む、すると。


 【 (*´ω`*) 】


 そのアップルパイがおいしかったのだろう。

 純粋な笑顔を裏図けるように、床に落ちた体の一部にそんな顔文字が表示されている。

 それを見た二人は。


 「嬉しそうだな……」

 「ええ、腕によりをかけて作ってよかったです」


 にっこりと、生暖かい表情で少女を見つめる。

 それは一見、家族と見間違えそうな光景、題を付けるなら『とある休日のお出かけ前』とても言うのだろうか?

 実に絵になる一場面であろう。


 …………。


 そして……。


 「先輩にいきなり呼び出されたと思ったら、何でまた店番なんですか! オイラこの店の店員じゃないんスよ~!」

 「だ、誰かスライム探し手伝ってよ~! と言うか、何でアタシまで手伝ってるのよ~!」

 「だって、こんな大人数、オイラ一人ではどうにもできないっスよ! 流石に調理しながら料理を運ぶって無理っスよ!」

 「だからって、何で私が手伝わなきゃいけないのよ!」

 「だってここに来ている人たち、殆ど『リーンちゃんが働いているなら食べていかないとな……』って言ってるっスよ! それに顔見知りなんスから手伝ってくれてもいいじゃないっスか!」


 それと真逆な光景があるとするなら、店主不在で客が大勢押し寄せている、この店内のあり様だろう。

 頭にバンダナを巻き、ラーメン屋の店員の様なアズサは複数の鍋を使って大量の料理を一気に作り、そしてリーンはエプロンを付けて、出来上がる料理を休みなく運んでいる。


 《それは、苦労という苦みを煮詰めている》


 余裕の無い表情の二人を見れば、そう例えても案外間違いではない光景が広がっていた。

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