3.小さなスライムとの出会い

 日を殆ど遮る黒いカーテン、その僅かな光が薄っすら照らす真っ白な天井と壁紙、床を隠す様に散らばった新聞や法律等の堅苦しい本、そしてノートパソコンが乗った低く広い机。

 そんなマンション3階の一室で、毛布を被って眠っていたローグは目を覚ます。


 「頭が……痛い……」


 上半身を起こし、寝癖がついてボサボサの頭をぼりぼり右手でかくと、ただ何を考えず閉まったカーテンの一点を見る。


 「…………」


 サーっと耳に飛び込む静かな音、殆ど真っ暗な部屋の中、それは徐々に時間の感覚を失わせるよう。

 そして、そんな感覚と反比例するように徐々に脳のエンジンが回りだす。


 昨日、シノの店に行った事。

 リーンが実は人気者だった事。

 サンタモニカが余計な事を口にした事。

 その後、リーンと世間話をして家に帰った事。

 そして。

 そして……。


 「…………」

 「…………」ゴソゴソ。

 「!?」

 「…………」


 ゴソゴソと新聞や雑誌が動いたと思えば、そこから見知らぬ子どもが顔を出す。

 見かけは9歳くらい、長い白髪に白い肌、大きく透き通るような青い瞳、そして小さく空けた口。

 そんな女の子が新聞紙に包まってローグを見ている。


 「……君は誰だ?」


 一瞬戸惑い「夢ではないか?」と目をこすったローグだったが、これが現実だと理解すると共に冷静さを取り戻し、柔らかく、そして落ち着いた表情で少女にそう尋ねる。

 すると、少女の右手付近からドロッとした液体が垂れると、それは小さなホワイトボードらしき姿を変える。

 そして少女は、それを両手に持ち。


 【 (-_-;) 】


 という顔文字をホワイトボードに浮かび上がらせる。


 (なるほど……)


 それを見て、ある程度を察したローグは、少女に話しかけ始める。


 「つまり、リーンの仲間のスライム……で良いのか?」

 【 ('ω')ノ 】


 どうやら少女は、顔文字と連動して表情も変わるようで、少し考えこんだ表情をしたあと、首をコクリと縦に振る。

 それを見て「なるほど」と小さく口にしたローグは立ち上がると、クローゼットから、とても大きい白のTシャツを取り出すと、少女に差し出す、そして。


 「貰いものだが、とりあえずコレを着てくれ。 部屋に裸の子供と一緒にいると言われたら俺、通報されて逮捕されそうだからな……」

 【 ('◇')ゞ 】


 やや気恥ずかしそうなローグが差し出された服を少女は受け取ると、それをモゾモゾとぎこちない手つきながら、なんとか体に纏うが。


 「……っと、これは際どいな……」

 【 (/ω\) 】


 服は大きい、だが着丈が足りず膝が丸出しになり、風が吹けば大事な部分が見えてしまうのではないか?と思う程、危険な恰好になっている。

 そして、流石に少女も恥ずかしいのだろう、顔を左手で隠して顔をうつむいている。


 「はぁ……。 不本意だが仕方ない、シノに協力を頼むか……」

 【 ('Д')? 】


 そしてローグはスマートフォンを取り出し、罵倒されることを覚悟してシノに電話をかけるのであった。


 …………。


 一方その頃、喫茶店聖なる風の中では。


 「はいもしもし~、どうしましたニート様~?」

 「お願い、お願いだからいなくなったスライム探してよ~!」


 泣きながら、電話に出ているシノを揺らすリーンの姿があった。

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