「……つまり、言葉を考えなかった結果がアレという事だ」

 「つまり、これが口は災いの元って事ね」

 「だから今、あのおっさんは地面とキスをしている訳だ。 お前にはいい先生だろう、体を張ってことわざを教える男なんてなかなかいないぞ」


 状況は刻一刻と変化するものである。

 リーンとローグの前に広がるのは、地面にべったりくっついているサンタモニカ、そして木の棒で容赦なく叩くシノの姿。

 彼らが話している間にこうなったのには理由がある。


 それは、ローグが説明している間に、サンタモニカがシノに「Tバックを見せたい相手に何故見せないの、Tバック姉さん? 見せてくれないなら俺に見せてくれ、Tバック姉さん!」と叫んだ事が始まりだった。


 《Tバック姉さん》


 この言葉はシノにとって最も屈辱的な言葉だった。

 故に彼女はプルプルと体を震わせ。


 「Tバック? Tバック姉さんですって……? こ、こんな不愉快な言葉、初めてですね……」


 とても静かに怒りを口から漏らす。

 そして。


 「あ、ごめんなさい! マジでごめんなさい! だから、その右手の木の棒を振りかざすのは……ぬわーっ!」


 それは浦島太郎の中で、子供にいじめられていた亀の様。

 四つん這いでうずくまっていたサンタモニカを、シノがいつの間にか手にしていた木の棒でバンバン叩いたのであった。

 が、そう悲鳴を上げながらも。


 (プロどMとしてこれほどの至高があったものか?)


 心の中で、大変楽しむサンタモニカであった。


 …………。


 そして現在。

 その様子を見ながら、ローグとリーンの二人は、感情を感じさせない、無の表情でその様子を眺めていた。


 「なんか、冒険者がレベル上げの為に、私たちスライムを木の棒で撲殺しているのを思い出したわ……」

 「レベルねぇ……、まるでゲームだな」

 「ねぇ、シノって人間なの?」

 「は?」

 「あんな凶暴な人間、こっちでは見たことないからさ」

 「綺麗な花にはトゲがあるものだからな……」

 「トゲというより、毒じゃないの? よく口から吐いてるし」

 「ふふ、体が液体なだけあって、溶け込むのはお手の物か?」

 「口の綺麗なお二人のお陰かな?」

 「そんなに口が綺麗だと、腹が黒くなるぞ?」

 「大丈夫、私のお腹が黒くなるのはローグさんと話している時だけだから」

 「まぁ(エプロン付けてるから)お前の腹部は今真っ黒だけどな」


 スライムの適応力というのは非常に高いらしい。

 きっと少し前なら「何でよ~」と返すのが精いっぱいだっただろう。

 だが、今はローグと二人で話す時だけはやや毒付いた冗談をたまに言い合える程になっていた。

 その適応力は街の人たちとも良い関係を築き、今や商店街のちょっとしたアイドルになっている。

 この様な結果を見れば、彼女のスライムペット大作戦が実る日も近いのではないだろうか?

 彼女がこの世界にどのような影響を与えるのか?

 そして、ローグには冗談を言えるのに、何故シノちゃんに冗談を一切言わないのか?


 それは、お察しください。

 (地面とキスする38歳)

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