「さて……、リーンの奴はどこにいったんだか……、ん?」

 「スライム、スライム買いませんか~! あ、お兄さん、スライム、スライムどうですか~こんなに可愛いですよ~」

 (弁当売りか、お前は……)


 リーンを探してフラフラ歩いていたローグは、商店街の中でいつも民族衣装の上にどこから手に入れたのか分からない黒いエプロンを纏い、首にぶら下げた四角い箱に詰められたスライム達を売っているリーンの姿を目撃し、ローグは静かにそうツッコむ。

 しかし、見事に売れていないらしい。

 それどころか自分から近寄っても「すいません」「あまり生活に余裕がないんだ……」等と言われ逃げられてしまっている。

 そんな様子にローグは呆れた顔をして口を動かし。


 「アイツ……、新しい作戦ってコレなのか……? そんな押し売りみたいな手で上手くいく訳ないだろう……」

 「そう思うのなら、手伝ってあげてはいかがですか~」

 「うわ!? なんだシノ、その恰好は……」


 背後から湧いてきたシノにローグはつい声を上げる。

 シノの格好は店で着ているバーテンダー風の格好とは違い、ジーパンに黒のシャツというラフなもの。

 それは一見、ラーメン屋で働いているのかな?とも思わせる格好である。

 さて、そんなシノはローグの疑問に対して。


 「オシャレですが何か?」

 「お、おう……」


 何とも言えない答えを口にし、ローグは(コイツ、本気なのか!?)と戸惑ってしまう。

 そんな反応を見て、「ふふふ~」と楽しげな声を口から漏らすと、上半身を左右にゆったり揺らしながら、ローグに話し始める。


 「おやおや、可愛すぎて照れてますか?」

 「俺が戸惑っている以外に見えるのなら、眼科に行ったほうが良いぞ」

 「私が可愛く見えないなら、眼科に行ったほうが良いですよ~」

 「そうか、なら眼科に行くか……。 ところでお前、店はいいのか?」

 「あぁお店なら……」


 …………。


 その頃『聖なる風』では……。


 「何で……、何でオイラが店番なんスか! オイラ、客っスよね! 何で、何でなんスか! と言うか、毎回スタンガン片手に命令しないでほしいっス!」


 そう声を上げながら、アズサが必死に皿を洗っているのであった。


 …………。


 「……という事でして、良い後輩を持って私は幸せですね~」

 「シノ……。 お前、もう少しアイツに可愛がってやれないのか?」

 「可愛がってますよ~、ゲロを吐く可愛い後輩ですから、特にですね~」

 「すまん、俺が間違っていたかもしれない……」


 そう言ってローグは軽く頭を下げ、シノが「ふふふ」と笑みを口からこぼした時の事だった。


 「謝るなら……、スライム、スライムを買いなさいよ~……」

 「うぉ!」


 それはまるでコメディ番組でヒュードロドロと音を立ててお化けが出るようなお粗末な雰囲気。

 だが、二人の間からそう言いながら湧いて出たリーンの雰囲気は、ローグを驚かせるには十分であった。


 「お前は普通に売ることが出来ないのか?」

 「だって誰も買ってくれないんですもーん……」


 左右の人差し指を合わせ、不満そうな表情でブツブツとリーンは口にする。

 リーンだって必死なのだ。

 同胞たちを買ってもらう為に!

 スライムたちの栄光の為に!

 それを純粋な気持ちを持って!

 彼女は頑張っているのである、故に。


 『おや、リーンちゃん、今日もお疲れじゃのう。 ワシの息子が務めるハンバーガー屋で買った物なんじゃが、いるかね?』

 「あ、笹井のおじいさん! いいの、貰って!? いつもありがとう~、私、ハンバーガー大好きだからありがたいよ!』

 『ほっほっほ~、すまんのうスライムを買ってあげられなくて……。 いつ寿命がくるか分からぬから、あまりその手の事に手出しできぬのじゃよ……』

 「いいっていいって、仕方ないもんそれは。 でも、長生きはしてね、おじいさんに会えなくなるの、寂しいからさ~」

 『ほっほ、ならワシも頑張って長生きせねばならぬな~』

 『あ、リーンちゃん! ちょうど良かった、おばちゃんね、今日セールで水菜をいっぱい買いすぎちゃって。 良ければどうかしら?』

 「飯島のおばちゃん、いいの!? いつもありがとう! は、今度から美人で素敵な飯島のお姉さまって言わなければいけないかな~?」

 『あははは、うれしい事を言うね~。 あ、そうそう! この前リーンちゃん、うちの植物の手入れを手伝いに来てくれた時、アロエ欲しがっていたわよね~。 ほら、リーンちゃんに会えたらって思って、持ってきたのよ!』

 「いいの!? ありがとう、お姉さん! あ、でも大丈夫その荷物の量? アロエ貰ったし、その恩返しとしてもお手伝いしたいし……」

 『あ~良いわよ今日は。 だって私、お姉さまなんだから、たまには頑張らないとね!』

 「そう、分かったわ! また何かあれば手伝うから遠慮なく言ってよ~!」


 その素直さと一生懸命さから、近所の方々から人気で、いつも何か食べ物をもらっているのである。

 そしてその様子を見ていたローグは。


 「どこぞの店主とは大違いだな、どこ……いだだだだ!」

 「おやおや、耳鼻科に行ったほうが良いですかね~私~」


 そんな事を言ったために、シノから足を強く踏まれ、苦痛を口から吐きだすことになった。

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