2.スライム販売大作戦……は始まらない

 それはリーンがやってきて2か月になる、5月のある日の事。 


「はぁはぁ……、新しいスライム販売大作戦を思いついたんだけど……、協力してくれるよね? 当然手伝ってくれるよね?」

 「「「当然手伝わない!」」」

 「何でよ~! 何で手伝ってくれないのよ~」


 突然、ドアをバンと開けてやって来たと思うと、リーンは間髪入れずそう叫び、ローグ、アズサ、シノの三人は声を合わせてそれを拒否する、その理由は。


 「オイラは厄介ごとに突っ込みたくないっス」

 「俺は、ココでのんびりするのに忙しいから無理だ」

 「帰れ下さい!」


 と嫌そうな顔の2名と、ニコニコ笑顔の1名のコメント、だが。


 「結局色々言ってるけど、めんどくさいんでしょ! と言うかシノ、帰れ下さいって何よ! もう理由でもないじゃないの!」


 当然納得できないのが、同胞売りの匠。

 だが、同胞のために一生懸命なリーンは引き下がらない。

 拳を握りしめ、両手を真っすぐ天井へ上げ。


 「私は同胞たちの為に一生懸命頑張っているの! だから手を貸してくれる優しさがあっても良いじゃないの!」


 と叫ぶ様に声を上げるが。


 「当店では優しさは取り扱っておりませんので~、帰れ下さい」

 「お願いよ! 手伝って、手伝ってってば!」

 「お願いです、帰れ下さい!」

 「バーカバーカ! もういいわよ、私一人で頑張るもん! うわーん!」


 結局店主の心無い言葉を受けたリーンは、そんな捨て言葉を吐き、店を後にした。

 そして。


 「……毒舌店主さんよ、ちょっと言いすぎじゃないか?」

 「何ですか? ローグさんツンデレに目覚めたんですか? 遅い目覚めですね、おはようございま~す」

 「悪口はいいからな。 俺も拒否したわけだが、あそこまで一生懸命だとどうも放っておけないと言うかな……」

 「ローグさん、なんだかんだで面倒見良いっスよね。 オイラが酔った時の後処理もなんやかんやでやってくれるし……」

 「そう思うなら、お前は飲みすぎてナイアガラの滝汚染活動という一発芸をするのはいい加減止めろよ……。 おっとそろそろ野暮用があるんだ、毒舌店主、代金はここに置いておくぞ」

 「どうもありがとうございました、またお越しください~」


 ローグはシノとそんなやりとりをすると、代金をテーブルに置き、左手をポケットにしまうと、堂々とした立ち振る舞いで店を後にする。

 そんなローグの背中を見ながらシノは。


 (ホント、素直になれないお人よしなんですから……)


 そうニコニコしながら静かに思う。

 そんな事を考えているとも知らないアズサは。


 「ローグさん、用事って何っスかね?」


 と首をひねって口にする、そして。


 「どうせストーカーでしょう~」

 「まさか、そんな訳……どうなんスかね……」


 ローグが立ち去ったドアを見ながら、シノは相変わらずの笑顔でそう冗談を飛ばし、アズサはどうなのか分からず戸惑うのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る