2
仁王立ちし「スライムを買え」と言った少女の言葉。
その余りの非現実さに、二人は数秒の間、少女をキョトンとした目で眺め、頬を
そして、それが現実なのだと理解した状況に、適応した二人は普段と変わらぬ様に会話を始める。
「シノさんよ、ここはいつから奴隷販売所になったんだ?」
「世間は社畜という奴隷文化に溢れていますが、ここは例外ですよ〜。 頭大丈夫ですか〜?」
「だがここに、奴隷商人をトッピングしたピザがあるんだが、それをどう思う?」
「きっと裏メニューとかサービスとかではないですか〜? 私を食べて……、とでも言うのですかね~? うわ、気持ち悪い男の願望ですね〜」
「俺はそこまで下種じゃないぞ……。 あ、すまんがビールのおかわりを頼む、酔ってこの現実から逃避をしたい」
「はい、少々お待ちください」
「おっと、ついでにラザニアも頼む、すこし腹が減ってきてな」
「少々お時間を頂きますが、よろしいですか?」
「こちらは一向に構わない。 じっくり待たせてもらうよ」
それは、この二人だからこそ出来る会話なのだろうか?
二人の間には、確かにピザの上に立つスライムが存在していた。
だが、彼らは一通り少女について、冗談めいて話し終えると、淡々とした声で会話する普通の客と店主の関係に戻る。
しかし、そんな二人の会話に。
「ちょっと聞いてよ~~~~~!!! お願いだから、ねぇお願いだから!」
リーンは手をブンブン降りながら必死にそう叫ぶ。
そんなリーンを二人は実に面倒臭そうな目で見ながら。
「接客はお前の担当だろう、シノ?」
「めんどくさそうな方は客ではありませんよ、人の良いローグさんの担当ですよ?」
「見知らぬ者にまで優しくするほどお人よしで無いのでな、断る!」
「目の前に素敵な女性が困っているのに助けないのですか~? これですから自称お人よしの方は……」
と、互いにリーンの対応を押し付け合う。
そんな時の事。
「いやっほっほっほ~、ウルトラハッピ~あっひゃっひゃ~、せんぱーい、お酒ちゃんを飲みに来たっスよ~! ヒャッホッホ~イ!」
(こんな時に、酔っぱらって来なくてもいいだろうに……)
(あぁ、また店が汚れますね……)
ドアをけ破り、既に顔を真っ赤にした短髪茶髪の女が一回前転して乱入し、そんな女を見たローグは、よりめんどくさそうな表情をして顔を反らす。
大きく開いた赤い瞳とニッコリした口元、高校を卒業しているにはやや小柄の体に、ショートパンツに白いTシャツ、そしてカーデガン。
それは彼女の子供っぽい雰囲気を最大限に引き出している。
それが、シノの大学時代の後輩であり、現在21歳の大学3年生、笹井アズサと言う女だろう。
さて、そんなアズサはリーンを見るなり。
「うわーお! これはこれは~! とっても美人、美人っスね~アナタ~、あっひゃっひゃっひゃっひゃ!」
「へ? え? うわ、うわ!」
(酔ってるなら早く帰れ、結局後始末は俺になるんだぞ……)
(ホント、今日に限って二人の空間を邪魔する様に人が来るのですか……)
そう言いながら、器用に一回転してリーンの前に着地すると、輝かせた目でリーンを見つめたと思うと、気づけば挟むように持ったリーンの両手を激しく上下させる動きへと早変わりしていた。
そんなアズサの態度に、ただただ戸惑うだけのリーン。
そして、嫌そうな目をしているシノとローグ。
二人が嫌そうな目をしている理由、それは。
「あ、気持ち悪いっス……。 おえぇぇぇぇぇ……」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」
酔っぱらっていると激しく動き回り、そして最終的に店で吐くからである。
おかげでシノはニコニコした表情で「汚物処理場に見えますか? 見えますか、アズサ?」とややドスの入った様な声を出しつつ、スタンガンを目の前でバチバチ言わせ、アズサは「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ! ごめんなさい、ごめんなさいっス!」とシノに必死に謝罪する。
そして、客であるはずのローグは「全く誰が毎回、ゲローラルの香りで店を包んでほしいと言ってるんだか……」とブツブツ言いながらも掃除し、それを悲鳴を上げたリーンが唖然とした顔で固まっている。
だが、それがこの店の日常なのだ。
それは、店の隅に隠すように置かれた、数本の消臭スプレーと汚れたモップが物語っている。
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